2011年2月17日木曜日

プロフェッショナル「仕事と人生」論 HBR 2011年3月号


HBR 2011年3月号 プロフェッショナル「仕事と人生」論     
       
「人生のジレンマ」を克服するために     
プロフェッショナル人生論       
       
        クレイトン M. クリステンセン  ハーバード・ビジネス・スクール 教授              
       

                        各界のプロフェッショナル10人が語る     
仕事の流儀     
                       
       
        1.権限委譲によってこそ、優秀な人材が生きる  合衆国 第66代国務長官 コンドリーザ・ライス              
        2.改善し続けることは、困難で知的な作業  ダイソン 創設者 ジェームズ・ダイソン        
        3.人の心を動かすのは知力ではない  動物行動学者 ジェーン・グドール           
        4.周囲の期待がチームを高める  ニューヨーク・ヤンキース 監督 ジョー・ジラルディ              
        5.起業家のパートナーシップは尊重と信頼がカギ  オーナー・シェフ マリオ・バターリ              
        6.現場を体験することでつながりが見える  彫刻家 リチャード・セラ             
        7.科学的な理解に物語は欠かせない  神経科医 オリバー・サックス               
        8.靴はエンタテインメント  靴デザイナー マノロ・ブラニク             
        9.自分を特定のカテゴリーに押し込めない  シンガー・ソングライター アニー・レノックス         
        10.心から真実を追い求める仕事  ジャーナリスト ベン・ブラッドリー           

 筆者のクレイトン M. クリステンセンは『イノベーションのジレンマ』などで知られる経営学者だが、本稿はビジネスを論じたものではなく、彼自身が人生の意味を見つけるうえで役立った指針を、ハーバード・ビジネス・スクールの2010年の卒業生に語ったものである。この考えの根本にあるのは彼の厚い信仰心だが、指針自体はだれにでもその活用できるため、HBRで紹介された。
 本稿では、クリステンセンが授業の最後に問いかけるという、3つの質問(経営の理論をキャリアや家族について当てはめてみる)を紹介し、人生の目的を考えることの重要性を説く。時間、エネルギー、能力という人生における資源の配分を考える際には、長期的な視点を持つことを勧める。また、間違った行為に伴う限界費用は、「この一度だけ」であればいつでも小さく思われ、それが、人生を誤らせてしまうとも警告する。そして最後に、人生を評価する物差しを持ち、人生の終わりに成功だったと評価できるように毎日を過ごすべきだと、アドバイスする。


人生のジレンマを克服するために

 リーマンショック以降、経済状況は急激に悪化し、それに伴い私たちの世界観や成功の定義にも変化が生じるようになりました。組織論やリーダーシップ、そしてイノベーションなどについて学んでいくことは大切ですが、今号はそれだけでない、プロフェッショナルとして生きていくうえで必要となる、仕事のありよう、人生のありようについて、関連する論文をさまざまな角度から取り扱いました。

「プロフェッショナル人生論」は『イノベーションのジレンマ』などで知られるクレイトン M. クリステンセン(ハーバード・ビジネス・スクール 教授)が2010年卒業生に向けて語ったものです。そこではクリステンセンの理論や考えを卒業後のビジネスにどう活かすかではなく、個々の人生に活かしていくにはどうしたらいいのか、そしてクリステンセン自身が人生の目的を見つけるうえで役立った一連の指針が示されています。

クリステンセンは授業の最終日に次の3つの質問を学生に投げかけ、答えを見つけるように求めるといいます。
・質問1:どうしたら幸せなキャリアをしっかりと歩めるか
・質問2:どうしたら伴侶や家族の関係を揺るぎない幸福の源にできるか
・質問3:犯罪者にならないためにはどうしたらいいか
詳細は本誌に譲りますが、質問1、2についてクリステンセンは、フレデリック・ハーズバーグや企業の資源配分の考えを用いて解説し、人生で強い動機づけとなるのはお金ではないことや人生の目的を見出すことの重要性を説きます。

質問3は唐突な感じはしますが、背景にはクリステンセンの同級生のなかにはエンロンの事件で服役している者もおり、アメリカではエグゼクティブが不正などにより、犯罪者になってしまうケースが日本と比べて少なくないという事情があります。不祥事に発展するような過ちを犯すことなく、誠実な人生を送るにはどうしたらいいか。これについてクリステンセンは「限界費用」を用いて説明しています。簡単にいうと、汎用品などでは生産量が増えると(たくさんつくると)一個当たりのコストは下がっていきますが、これと同様に誤った行いを犯す「心理コスト」は回数が増えるにしたがって下がっていきます。しかしながら、最終的な総費用の大きさを考えると、たとえ一度でも甘い誘惑に負けない、信念を貫くことが重要だとクリステンセンの話から学ぶことができます。

ただし、クリステンセンは過去に『イノベーションのジレンマ』で、優良企業が失敗するのは、その企業では理にかなっているとされてきた開発手法や経営慣行に固執することが「破壊的技術」の開発を妨げ、結果、「破壊的技術」で市場参入した新鋭の企業に足元をすくわれてしまうケースを述べています。つまり頑固に信念を貫くと損する面もあることを示しています。

今回と過去にクリステンセンが示した理論を合わせると、信念を貫くことは必要であり、美しくもありますが、その信念を貫く頑固さによって、ときには損する面もある、つまりサブタイトルにある、人生のジレンマがここに浮き彫りになっているように読みとれます。では、この人生のジレンマを克服するにはどうしたらいいか。クリステンセンは学生に向けて、「人生を評価する物差しについて考えなさい。次に最後になって自分の人生は成功だったと評価できるように毎日を生きる決意をしなさい」とアドバイスします。ここに人生のジレンマを乗り越えるヒントの一つがあるのではないかとも私は感じました。(岩崎 卓也)

                                       
「やらされ感」のある仕事をやりがいある仕事に変える     
ジョブ・クラフティング法       
       
        エイミー・レズネスキー  エール・スクール・オブ・マネジメント 准教授            
        ジャスティン M. バーグ  ペンシルバニア大学 ウォートン・スクール 博士課程               
        ジェーン E. ダットン  ミシガン大学 スティーブン M. ロス・スクール・オブ・ビジネス 名誉教授            

  いま、やらなくてはならない仕事と本当にやりがいを感じて打ち込める仕事とは、なかなか一致しない。そうした現実を仕方ないものとして、ただ不満やストレスをため込むだけで、諦めてしまっている人が多いのではないだろうか。しかし、自分自身で前向きに解決していくことは可能である。
 その手法の一つとして「ジョブ・クラフティング」は現状の仕事を可視化して整理し、自分の「動機」「強み」「能力」を明らかにした後で、「業務内容」「人間関係」「仕事に対する認識」を組み立て直していく。上司の命令ではなく、自分の意思で仕事を再定義してみると、自分らしさを取り入れたり、新しい視点で仕事をとらえたりできるようになる。本稿では、このジョブ・クラフティングの手法の用い方について解説していく。

       
                               
さまざまなスキルや経験を蓄積する       
流動性がキャリア戦略のカギ     
       
        ヘイグ R. ナルバンシャン  マーサー プリンシパル        
        リチャード A. グッゾ  マーサー プリンシパル            
       
 有望な人材を次々にさまざまな機能部門や事業部に異動させ、さまざまな経験やスキルを積み重ねさせる流動性重視のリーダーシップ開発プログラムは、成功事例も多いが、弊害もある。
 たとえば、ある大手消費財メーカーでは、およそ16カ月に1回という頻繁な異動のために設計・生産・マーケティングなどのコア・プロセスがおろそかになり、高度な専門知識の蓄積が難しくなった。一方、マリオット・インターナショナルでは、世界に展開する事業の性格から、流動性をうまく活用して、幹部要員の人材プールをつくり上げている。
 この成否を分けたものは何か。自社の事情をよく見極め、それに戦略をマッチさせたことである。人材育成のニーズに対応した流動性の種類、対象者、頻度などを特定し、必要なデータ(人事データのみならず、財務データや営業データも)を適切に分析したうえで意思決定することが重要なのだ。

                                       
なぜあなたの昇進は見送られたのか       
昇進の「不文律」を読み解け     
       
        ジョン・ビーソン  ビーソン・コンサルティング 社長              
       
 だれを昇進させるかの意思決定は、不可解で恣意的に見えるかもしれない。素晴らしい業績評価と確かな実績があってもなお、あなたの昇進は見送られる。実際には、何が起きたのだろうか。多くの企業において、人事評価はあいまいでわかりにくい。また、士気を下げないために、わざとそうしている場合もある。昇進が見送られた本当の理由を探り出そうと思ったら、自分で読み解くしかない。
 たとえば、「『リーダーシップ』に取り組む必要がある」とか、「あと『ひと味』ほしい」などと言われたら、よく考えなければならない。これらは、より具体的な懸念、たとえば戦略的思考に欠ける、仕事を委譲する能力が足りないといったことを覆い隠す隠語の可能性があるからだ。
 昇進の「不文律」の多くは、技能とも業界経験ともビジネス知識とも関係ないため、明確にすることがとりわけ難しい。このため、昇進を求める人々のとまどいはますます深まるのである。

       
                                       
グローバル・マネジャー5000人以上への調査が明かす       
世界で通用する人材の条件       
       
        マンスール・ジャビダン  サンダーバード国際経営大学院 名誉教授          
        メアリー・ティーガーデン  サンダーバード国際経営大学院 教授            
        デイビッド・ボーエン  サンダーバード国際経営大学院 教授        
       
 国内では常に高い業績を上げ、やる気や野心を持ったエース社員がグローバル環境となると、まったく成果を出せなくなるケースがある。異なる環境でも活躍できる人材と、失敗に終わる人材の分かれ道はどこにあるのか。世界各国のシニア・エグゼクティブ200人以上、マネジャー5000人以上を対象に調査を行った結果、明らかになったのが「グローバル・マインドセット」の違いである。
 グローバル・マインドセットは「知的資本」「心理的資本」「社会的資本」で構成され、すべての資本に秀でた人材が、グローバル環境でも成果を上げることができる。グローバル・マインドセットの有無は育った環境に大きく左右されるが、後発的に向上させることは可能である。本稿では、グローバル・マインドセットの詳細とその開発方法について解説していく。

                                       
キャリアを台無しにしないために 
転職で失敗する理由     
       
        ボリス・グロイスバーグ  ハーバード・ビジネス・スクール 准教授          
        ロビン・エイブラハムズ  ハーバード・ビジネス・スクール 研究員          
       
 優秀な人材が転職先でも高業績を収めるとは限らない。むしろ、転職後の業績は長期的にも短期的にも著しく低下することのほうが多い。おしなべて転職には、家庭生活と社会生活の激変、新たな企業文化や社内政治への順応など、変化に伴う代償がつきまとう。にもかかわらず、これらについてよく考えず安易に決めた転職によってキャリアを台無しにしてしまうケースが後を絶たない。
 筆者らが、50以上の業界から集めた400人のエグゼクティブ専門のヘッドハンター、40カ国の経営幹部500人あまり、多国籍企業15社の人事部門責任者を対象に行った調査によれば、転職者は、下調べが不十分、お金に釣られて、現状から逃れるため、自分を過大評価する、目先のことしか考えない、という5つの過ちを犯していることが明らかになった。これらを踏まえ、リスクと現実を慎重に評価すれば、少なくとも大失敗となる転職を回避できる。

                                       
ジェンダー調査機関「カタリスト」がデータに基づいて指摘 
メンタリングでは女性リーダーは生まれない       
       
        ハーミニア・イバーラ  INSEAD 教授              
        ナンシー M. カーター  カタリスト リサーチ担当バイス・プレジデント              
        クリスティン・シルバ  カタリスト リサーチ担当ディレクター              
       
 カタリストの調査によれば、男性よりも女性のほうがメンタリングを受けている。しかも、それは過剰といってもよいほどである。にもかかわらず、昇進する確率は女性のほうが低い。その原因は、女性は男性が受けているような「スポンサーシップ」を受けていないことにある。メンターは指導や評価を行うのにとどまるのに対して、スポンサーは相手の昇進を実現するために社内でさまざまな活動を活発に展開する。現実にはスポンサーシップが得られないと、昇進候補者として見落とされる可能性があるのだ。
 有能な女性たちの昇進促進を目指すなら、企業はメンタリングとスポンサーシップを明確に区別した制度を確立する必要がある。ドイツ銀行、ユニリーバ、ソデクソ、IBMヨーロッパでは、すでにそうした取り組みを開始している。差別なくだれでも受け入れる企業文化の醸成や、女性を後押しする上司の存在など残された課題はあるが、いま、過剰なメンタリングにストップをかけ、実効性のあるスポンサーシップをスタートすることが求められている。

                                       
知識体系ではなく「協働」(コラボレーション)を教えよ   
マネジメント教育の真の役割     
       
        リチャード・バーカー  ケンブリッジ大学 ジャッジ・ビジネス・スクール 教授               
       
 経営者を育成するための正規教育や認定制度があり、経営者の社会的地位は医師や弁護士と同じように高いが、マネジメントは専門職ではない。 各職業団体は専門職として必要な知識を定義し、その実力を部外者に保証するという役割を果たしており、我々はそれに頼っている。しかし、優れたマネジャーとなるための能力や知識は、こうした監督体制に向いていない。さらに、マネジメント教育では知識体系をマスターすることよりも、それらの知識を統合するスキルの習得が重要である。
 こうした統合スキルは教わるものではなく、みずから学び、身につけるものであり、学生たちの頭のなかで、MBAプログラムのさまざまな要素を関連づけることで育まれる。マネジメント教育は「万人向けの既製服」ではない。そして、マネジメントに何より重要なことは、知識や競争よりも「協働」である。

               
HBR Article    
       
                                       
アメリカで最も物議を醸した経営者を再考する     
ロバート・マクナマラ:科学的経営の功罪 
       
        IMD 教授  フィル・ローゼンツバイク             
       
 ケネディ、ジョンソン両大統領時代に国防長官を務めたロバート S. マクナマラは、ベトナム戦争を泥沼化させた張本人としてアメリカ人の記憶に残っている。このベトナム戦争の悲劇のためにかすんでしまっているが、学界、産業界、政界とさまざまな場で活躍した彼の生き方はもっと注目されてよい。
 本稿では、ハーバード・ビジネス・スクール、陸軍航空隊、フォード・モーター、そして国防長官、世界銀行総裁という華やかな経歴を追いながら、統計分析など近代的な経営手法に明るく、その知識をもって軍の兵站効率やフォードの業績を劇的に改善した手腕を紹介すると共に、晩年マクナマラがベトナム戦争の誤りを受け入れ、過ちの原因を理解しようとしていたことにも触れる。
 近代経営の体現者ともいえるマクナマラを通して、その功績と限界を分析し、経営の目的を考える。


 今号の「ロバート・マクナマラ:科学的経営の功罪」は、ケネディ、ジョンソン両大統領時代の国防長官、ロバート・マクナマラについての論文です。マクナマラはベトナム戦争を泥沼化させた張本人とされ、その評価はきわめて低く、「頭はよいが賢くない」「定量分析は得意だが人間としての共感能力に欠ける」などといわれていました。

 ところが、この論文はこれまでのマクナマラの悪評は彼の一面に過ぎないことを明らかにし、彼の生涯をこれまでとは異なる視点から分析することで、近代経営で重視された「明確な分析と合理的な行動」「株主価値の最大化」といった金銭的な富を求めることだけでは、経営の目的としては不十分であるという、経営への考え方の進化を浮き彫りにしています。

 もともと、マクナマラは統計学の分析に優れ、数多くの業績を残した人でした。ハーバード・ビジネス・スクール教授、フォード自動車の経営幹部など、学界、民間企業、政府などのさまざまな場所で数多くの業績をあげます。ところが、ベトナム戦争ではこれまでのような分析による意思決定をしようにも、データに誤りが多く、軍を誤った方向に導いてしまいます。かつては歩くコンピュータと褒められていたマクナマラでしたが、やがてコンピュータのように冷たい人だと言われるようになってしまいました。

 結局、彼は自身の誤りを受入れ、具体的にベトナム戦争のどこで歯車が狂ったかを知るため、ベトナムを訪れたりするようになります。そして89歳の誕生日を数カ月後に控えたとき、ハーバード・ビジネス・スクールの学生たちに次のように述べました。
・合理性には力があるが、それだけでは人は救えない
・人間は善意の生き物だとしても、全知全能ではない
・敵を理解し、さらには自分たちの前提が正しいかどうかを見極めるためには敵を悪人扱いするのではなく、彼らに共感しようとしなければならない

 共感に欠けると批判されたマクナマラが晩年、「敵に共感せよ」と言い、合理性を誇りとした彼が「合理性だけでは人は救えない」という言葉を口にするようになります。コンピュータのようだと言われた人間がベトナム戦争の悪役に落ちることにより変えられていく。マクナマラの変化を示したこの論文は経営のあり方、そして人として何を重視し、どう生きるかを考える機会となるのではないでしょうか。(編集部)

               
OPINION
       
                                       
「公と私」と企業の倫理 
                       
       
        猪木武徳  国際日本文化研究センター 所長        
       
       
       
               
CHIEF OFFICERS 
       
                                       
コスト削減だけではなく、グローバル対応、新価値創造にも貢献     
                       
       
        ハリクリシュナ・バート  エイチシーエル・ジャパン 代表取締役社長

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