NEC・レノボ合弁、国内PC業界の盟主を提携に駆り立てる背景
単価下落続く国内PC市場、生き残り懸けた業界再編へ突入
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国内パソコン最大手のNECが、中国パソコン最大手のレノボグループと資本・業務提携に向け交渉していることが、2011年1月21日に明らかになった。双方とも交渉内容には口を閉ざしているが、パソコン事業を手掛けるNECの完全子会社であるNECパーソナルプロダクツにレノボが過半を出資する方向とみられる。提携交渉が実現すれば、NECのブランドは残しつつも、持ち株比率の高いレノボ主導で開発・生産・部材調達を統合することになる。かつて「PC-9801」で国内市場を席巻し、今も2割近いシェアで国内市場のトップを走るNEC。そのNECが海外勢と組むことは、国内パソコン業界の大きな転換点といえる。最大手がいち早く業界再編を仕掛けることで、国内の競合他社の間でも合従連衡が進み、シェア下位のメーカーが苦しい立場に追い込まれるシナリオも考えられる。
"井の中の蛙"のNEC、"その他大勢"から抜け出せないレノボ
NECのパソコンは、国内でこそ高い知名度を誇り、家電量販店の店頭でも目立つ場所に展示されているが、海外に目を向けると様相が異なる。米調査会社のIDCによると、国内パソコン出荷台数ベースのNECのシェアは18.3%でトップなのに対し、世界のパソコン出荷台数ベースで見るとNECは12位で、シェアはわずか0.9%。米ヒューレット・パッカード(19.7%)、米デル(12.6%)、台湾エイサー(12.6%)などと比べると出荷台数はけた違いに低く、東芝、ソニー、富士通といった国内大手の後塵を拝している(図1、図2)。
一方のレノボは、2009年に全世界で2490万台のパソコンを販売し、世界シェアで4位(8.2%)に付けている。NECは260万台なので、10倍近い販売台数を誇る計算だ。おひざ元の中国市場はもちろんのこと、先進国市場、中国以外の新興国市場のいずれでも販売台数を急速に伸ばしている。そんなレノボだが、日本市場ではシェア4.6%で8位と振るわない。IBMから買収したノートパソコンのブランドである「ThikPad」に対しては今も熱烈なファンがいるものの、ソニーや東芝、パナソニックなどのモバイルノート競合製品に押されてじり貧となっているのが現状。「IdeaPad」「IdeaCentre」などの低価格モデルは、付加価値競争が激しい国内市場では存在感を打ち出せていない。また海外市場でも、地域別セグメントで見ると、中国以外の途上国市場は赤字基調が続いており、中国市場の黒字で埋め合わせている状態だ。先進国市場では2010年7〜9月期にようやく悲願の黒字化を達成したものの、利益率は1%に留まっており、まだ安心できる状況ではない。
NECにとっては、レノボとパソコン事業を統合できれば、レノボの調達力を生かして、商品力を高められる。また、レノボが世界中に持つ販売網を生かせば、日本メーカーならではの商品企画力で開発した独自製品を海外で販売できる可能性も出てくる。レノボにとっても、日本市場に精通しているNECの商品企画ノウハウや知的財産、営業体制を利用できれば、"その他大勢"の1社でしかない現状から脱却し、国内シェアを伸ばすことが期待できる。また海外市場でも、NECのノウハウを生かした製品をレノボブランドで投入できれば、赤字続きの現状を打開できる可能性がある。NECとレノボという組み合わせは、両社の弱点をうまく補完し合う、理想的な組み合わせといえる。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110125/356410/?SS=imgview&FD=-907256175&ST=ittrend
図1 日本市場におけるパソコン出荷台数ベースの市場シェア(グラフ:IDCの資料を基に日経パソコンが作成)
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図2 世界市場におけるパソコン出荷台数ベースの市場シェア(グラフ:IDCの資料を基に日経パソコンが作成)
単価下落続く国内PC市場、生き残り懸けた業界再編へ突入
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絶対避けたいパッカードベルの二の舞、単価下落に耐える体力が不可欠
もう1つ、NECをレノボとの提携に駆り立てた理由がある。Windows 7効果などで業績がひと息ついている今のうちに、パソコン事業の再編にメドを付けておかないと、近い将来国内事業の継続すら難しくなりかねないという危機感だ。
かつてNECは、PC-9801の高い国内シェアと利益率を後ろ盾として、海外にも触手を伸ばしていた。1995年8月には米国のパソコンメーカーであるパッカードベルを買収し「パッカードベルNEC」として事業展開していた。しかし1990年代後半は、IBM PC/AT互換機市場で急速な価格競争が巻き起こった時期でもある。eマシーンズ、ゲートウェイ、コンパック、デルコンピュータといったメーカーが、「1000ドルPC」などと呼ばれた低価格機を競って投入。Windows 95/98の登場と相まってパソコンは一挙に普及したが、業界全体が利益の果実を手にしたわけではなく、価格競争に付いてこられないメーカーは容赦なく蹴落とされる厳しい市場であった。結局、NECは1999年10月にパッカードベルブランドのパソコン事業から撤退すると発表。その後は、比較的好調だった欧州を主軸として、自社ブランドに切り替えて海外でのパソコン販売を継続したが、芳しい成果を挙げることなく2009年に海外から完全撤退している。
国内市場におけるNECのパソコン販売は、足元では好調だ。図3はNECの国内パソコン出荷台数を四半期ベースで示したものだ。直近では、景気低迷や海外勢によるネットブック攻勢を受けて2008年後半〜2009年前半に販売が低迷していたが、Windows 7が発売された2009年10月以降は持ち直し、年間300万台をうかがえる水準。2005年以来、久々に好調な状況だ。
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図3 四半期ベースのNECの国内パソコン出荷台数。2008年後半〜2009年前半は低迷したものの、2009年10月のWindows 7発売以降は持ち直している(グラフ:NECの資料を基に日経パソコンが作成)
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しかし国内市場では、パソコンの単価下落が止まらない。IDCによると、2010年の国内市場におけるパソコン平均単価は約11万5000円となる見通し。2002年ころまでは19万円を超えていたが、2003年以降は急速に低価格化が進み、2006年には15万円を割る水準に。2007年に若干持ち直したが、その後は再び下落基調が続く。IDCの予測では、今後も単価下落は止まらず、2012年には10万円を下回るとしている(図4)。単価下落の波は、国内最大手のNECにも押し寄せる。
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図4 国内市場におけるパソコンの平均販売価格の推移。長期低落傾向は今後も続き、2012年には10万円を切る見込みだ(グラフ:IDCの資料を基に日経パソコンが作成)
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NECとレノボのパソコン出荷台数を単純合算すると、NEC単体の10倍以上となる。これだけの規模になれば、部材調達のコストを大幅に低減でき、直近で利益率の改善が見込めるのはもちろん、NECより世界シェアの高いメーカーが価格競争を仕掛けてきても、赤字転落を避けながら対抗できる余裕が生まれる。逆に、業績好調な今を逃すと、さらなる価格競争の激化で、かつてのパッカードベルNECのように再び赤字体質に陥る危険もある。そうなってから同業他社に提携を求めても、黙殺されるか著しく不利な条件を飲まされる可能性がある。海外勢の出資を受け入れるというショッキングな条件であっても、ひと息ついている今のうちに再編を仕掛けることが、将来にわたりNECブランドを生き残らせるための最後のチャンスなのである。
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