http://blog.goo.ne.jp/moncheri54/c/be6be6f0a217330dd23d6467d25e2c17/1
取引基本契約書の知識を紹介する良いサイトが見つかった。
とりあえずメモしておく。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書①。
お題は、ビジネス上の取引で最も目にすることの多いであろう『取 引基本契約書』です。
学問的な部分を省略し、実務レベルの内の一般的なことから経験を含めたことまで明記していこうと 思いますので、最低限必要であると思われることを掲載します。
そして、本題に入る前に一つ お断りを。
契約に関して、わからないことや極度に専門的な事柄が発生した場合、できる限り弁護士などの専門家にご相談ください。
『顧問料 等がもったいない』という様な意識はナンセンスです。
場合によっては契約の不手際による損害の方が、顧問料などよりも余程甚大な損害となりますの でお気をつけ下さい。
また、顧問契約は準委任契約(法律行為以外の事務を委託する契約)として口頭でも成立しますので併せてご留意下さい。
なお、若輩、薄弱な知識で、とても博覧強記とは言えませんが、私などにでもご協力できることがございましたら別途ご相談下さい。
さて、『取引基本契約書』についてのお話の下地として、契約の際の適正手続きから進めていこうと思います。
1.契約の目的
企業法務は基本的に以下の3つの機能が存在すると言われています。
①臨床機能⇒法的紛 争による企業への損害を病気と捉らえ、治療しようとする事後対応的法務
②予防機能⇒どのような行為が法律に違反するのか予測し、指導や警告により 法的紛争を未然に防ぐ事前処置的法務
③戦略機能⇒法的規制を逆に駆使し事業活動の戦術・戦略に助言、または検討する事業戦略的法務
契約書の作成はこの中でも主に予防機能に属すると判断されます。
二者間以上の約束事を曖昧にせず、権利責任の所在を書面によ り可視化することで実損発生の可能性をできる限り低減さようというものです。
紛争が発生した場合に自身に有利になるように契約書を作成するという ことをよく耳にしますが、私の経験による主観では、やたらめったら条項を増やすのではなく、その契約書が取引におけるビジネス活動を適切に反映している か、発生が予測されるリスクを見極めてその対処法を含めて網羅されているか等を明確にし、契約の当事者間の円滑な取引関係を築き上げるということに意義が あると感じます。
2. 契約自由の原則
契約には以下の原則があります。
①契約締結の自由・・・・・・・・・契約をするかしないかを決定する自由
②相手方を選択する自由・・・契約相手を選べる自由
③契約内容の自由・・・・・・・・・契約に盛り込む内容を判断できる自由
④契約方式の自 由・・・・・・・・・書面や口頭など契約方法の自由
以上の様に、諸原則が設けられていま す。
ただ、本当になんでもかんでも自由というわけではなく、『消費者契約法』、『特定商取引に関する法律』、『割賦販売法』、『利息制限法』などの強行法規、または公序良俗違反などにより一定の制限下にあります。
そのルールの範囲内において自由なのです。
3.契約締結の方法
国内において用いられる方法は、記名押印となります。
国外において用いられる方法 は、主に署名です。
以下、国内の記名押印における一般的な手法を紹介します。
【契 約締結の印】
契約締結の証として使われる印鑑は、必ずしも実 印である必要はありません。
認 印でかまいません。
ただ、実印は役場に届け出ているものであるため、認印よりも証拠能力があります。
なお、実印を使うのであれば、印鑑証明を契約書に添付することで本来的な意義があります。
また、契約は、契約締結の証としての押印により成立するわけではありません。
大雑把ですが、当事者間の意思表示の合致によって成立するものと、一方の当事者が物の引渡し等によって成立するものとが存在します。
つまり契約締結の証としての記名押印は契約が成立したという当事者間の意思確認に過ぎませんが、後日のトラブルを予測すると記名押印しておくべきでしょう。
【契 印】
契約書が2枚以上のページにわたる場合に、1つの文書であることを証明するために、両ページにまたがって押す印のことを契印といいま す。
契約締結の証の印と同じものを押印しなければなりません。
つまり、記名押印者全員の印を押印することになります。
【割 印】
普通、当事者双方保管のために同一の契約書を2つ以上作成しますが、この2つ以上の契約書が同一のものであるため、2つを重ねた部分 に押印します。
この際の印鑑は、契約締結の証のための記名押印のものと同一でなくても良いと言われています。
【捨 印】
契約書に誤字が存在することなどを想定し、あらかじめ欄外に押印しておくものです。
訂正部分が見つかった際に相手側の印をも らいにいく手間を省くものですが、無断で契約内容を訂正されてしまう場合があるので、できる限り押印しない方が安全です。
訂正がある場合は、面倒 ですがその都度連絡を取り合うべきでしょう。
【消 印】
契約書に貼り付ける収入印紙と契約書の紙面にまたがって押印するものです。
収入印紙の再利用を防止することを目的とします。
割 り印と同じく、契約締結の証のための記名押印のものと同一でなくても良いと言われています。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/3f/4b5417d057b34b0bb19b48eab76fd6cf.jpg
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/5a/34bd1eee934308b8599f907bc1bc15e9.jpg
4.収入印紙
契約書に収 入印紙を貼ることがあります。
印紙税法により特定の文書は課税文書と見なされ、収入印紙を貼ることにより印紙税を納税しなければなりませ ん。
この印紙税は契約書のタイトルで判断されるのではなく、契約書内の実質的な意義に基づいて判断されることになるので、タイトルに惑わされない 様に気をつけなければなりません。
課税契約書に対して収入印紙を貼ってない、または金額が不足している場合、印紙税法違反となり、【本来の印紙税額+その印紙税額の2倍の過怠税】が貸されます。
収入印紙に関する不備を自己申告した場合は、【本来の印紙税額+その印紙税額の 10%の過怠税】となります。
つまり4,000円の課税が貸されている文書の場合、印紙を貼っていなければ追徴課税分を合わせて12,000円を納税しなければなりません。
印紙税額に関しては、【国税庁のホームページ】をご覧下さい。
取引基本契約書は一般的に、7号文書(税額4,000円)に当たることが多いと考えられます。
ここまでで、最低限、契約締結のための下地が整いました。
あ くまで、手続き上のものであること、および最低限であることをご了承下さい。
では、また次回。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書②。(概要)
■取引基本契約書の目的
【基本契約と個別契約と特約】
取引基本契約書(単に『基本契約』と言うことが多いです)は、 企業間で行われる継続的な商取引について、取引の全般に渡って共通に適用される事柄を事前に網羅・成文化したものです。
これに対し、個別の取引契 約(いわゆる『個別契約』と言うものです)は、品名や数量、納期等の個々の取引の詳細を具体的に記したもの であり、ほとんどの場合、契約書という形ではなく、買主や委託者からの注文書と、売主や受託者からの請書、電子商取引に見られるようなPCからの発注やその確認で行われます。
特約は基本契約書の一部を詳細化したり、変更を加えるために差し込むものです。
『協定書』だったり『合意書』だったりという体 裁を取ります。
優先順位は、①個別契約、②特約、③基本契約となります。
【取引基本契約書の内容】
たとえ、契約書のタイトルが『取引基本契約書』という一つの名称で統一されていても、その契約の中身は様々な形態の契約が混ざり合っています。
取引基 本契約だけに限らず、契約の形態に関しては、一般的に民法に規定されている『典型契約』と契約自由の原則(当ブログの『取引基本契約書①。』参照)により認められる『非典型契』が存在します。
※典型契約(典型契約の要素を複数含んでいるものは『混合契約』とも言います。)
①贈与、売買、交換
⇒移転型と呼ばれ、一定の物やお金を一方から他方へ移転させ ることで契約が締結。
②消費貸借、使用貸借、賃貸借
⇒使用型と呼ばれ、口頭のみで なく、実際に物が移転されて初めて有効に成立する契約。
③雇用(雇傭)、請負、委任
⇒ 役務型と呼ばれ、一方が他方に対して労務や役務を提供する契約。
④寄託
⇒当事者の 一方(受寄者)が、相手方(寄託者)のために物を保管することを約し、それを受け取ることによって成立する契約。
⑤組合
⇒各当事者が出資して共同の事業を営むことの合意。
⑥ 終身定期金
⇒相手方が死亡するまでの期間、一定の金銭を支払い続ける契約。
⑦和解
⇒ 当事者間に存在する法律関係の争いについて、互いに譲歩し、争いを止める合意。
※非典型契約(民法に規定がないので『無名契約』とも言います。)
⇒典型契約以外のもの。機密保持契約、ライセンス契約、技術指導契約などはこれに当たりま す。
■一般的に取引基本契約書に盛り込まれる条項
① 【タイトル】
⇒当然ですが、まずはタイトルがきます。
余談ですが、契約書は名前に特別な意味はありません。
『契約書』だろうが 『協定書』だろうが『誓約書』だろうが『覚書』だろうが、同質のものとみなされます。
つまり、全て契約書です。
「その契約書にはいくらの 印紙税が掛かるのか」という判断の基準に契約書名は一切関係ありません。
実質的な契約書の内容によって決まります。
ですので、収入印紙の 貼り間違いにはご注意下さい。
②【前文】
⇒契約当事者の名称、契約の目的・趣旨、 合意など。
英文契約ではPremises(頭書)、Whereas(説明条項)にあたる部分です。
そしてこの先からが、いわゆる③【契約条項】です。↓
1.『適用範囲』
⇒ 当該契約で取り扱う目的物の特定など。
「目的物」や「本件商品」などで表現したりします。
2.『個別契約』
⇒個別契約の 成立、個別契約の内容(品名、数量、納期など)、注文書・請書などの交換で個別契約書の作成に代える旨、個別契約が基本契約の内容を一部廃し優先される旨 など。
3.『仕様』
⇒目的物の仕様の取り決めなど。
仕様とは、仕様書に記載された目的物の材質、形状などの指示内容や作 業順序などを言います。
4.『支給品』
⇒原材料や部分品の有償支給、無償支給など。
製造委託などでよく見かけますが、そ の場合は支給品の所有権は移転しません。
5. 『納入』
⇒納入の方法、納入不可時の協議など。
同じ納入でも(委託者・買主等から受託者・売主等への)支給品の納入や、(受託者・売主等 から委託者・買主等への)目的物や本件商品の納入などがあります。
6.『検査・受領』
⇒納入前の事前品質検査、納入品の品質検査 の実施、検査合格品の受領など。
納入→検査→受領の各段階で、どの時点で危険負担や所有権が移転されるのかがポイントになります。
7. 『検査不合格品』
⇒納入後検査による不合格品の引き取りなど。
輸送に輸送業者を使っている場合、詳しい取り決めも必要になります。
8. 『所有権の移転』
⇒所有権移転のタイミング(引渡時、代金完済時など)など。
国際取引の場合、所有権(title)の移転は要注意です。 専門家に質問すべき事項でしょう。
9.『危険負担』
⇒支給品・目的物等の毀損・滅失時の負担の取り決めなど。
10. 『品質保証』
⇒目的物が、買主や委託者の要求に達する品質であることを保証する旨。
後日の製造物責任絡みの紛争を避けるため、別途、詳細 化した『品質保証協定書』などの特約を差し込んだりもします。
11.『貸与品・貸与図面』
⇒機械、治具・工具、図面等の貸与と善良な管理者としての注意義務をもっての取扱いな ど。
貸与品に関しては、その滅失や毀損による損害を想定し、「付保しなければならない旨の条項」を設けることもあります。
12. 『価格』
⇒価格の条件、個別契約で契約都度定める、別紙に定める旨など。
13.『支払い』
⇒締日や支払日などの支払条 件、手形や振込みなどの支払方法など。
14.『遅延損害金』
⇒納期や支払遅延時の違約金について。
契約で取り決めていな い場合、商事は法定利率6%となっています。
15. 『相殺予約』
⇒対等額での相殺など。
16.『瑕疵担保責任』
⇒受領後の目 的物の隠れた瑕疵が発見された際の代替品、引き取り、引き取り費用、権利行使の期限など。
17.『製造物責任』
⇒目的物の欠陥に起因する生命、財産、身体への損害など。
18. 『権利義務の譲渡禁止』
⇒相手方の承諾なしの債権債務の全部または一部の譲渡の禁止について。
19.『知的財産権』
⇒技術改良・業務上の発明の権利の帰属、第三者の知的財産権侵害 時の対応など。
事前に取り決めておくことで、契約内容の業務遂行上で特許や実用新案に該当する発明やノウハウが発生した際の権利の帰属を明確化で きます。
20.『機密保持』
⇒各当事者の取引において知り得た営業上、技術上の情報漏洩の防止について。
取引基本契約書を締結する前に、機密保持契約書(NDA) を先行して締結することがあります。
21.『再委託』
⇒再委託の許可、再委託の際の事前承認など。
22.『契約 の解除』
⇒当該契約が解除できる旨と、契約解除のための要件など。
特に契約の場合、『解除』と『解約』は似て非なるものなので要 注意です。
23.『期限の利益喪失』
⇒ 契約解除時などに期限の利益の喪失について。
『期限の利益』とは、例えば、4月1日に売買により物を受け取り、その取引で生じる対価としての金銭 等の支払い期限を10月1日としていた場合、逆から言えば10月1日まで支払わなくていいことになります。この6ヶ月間を債務者にとっての利益とみなし、 『期 限の利益』と言います。
24.『契約終了時の措置』
⇒貸与品の返還についてなど。
25.『残存条項』
⇒ 契約終了後も効力がある条項についての取り決め。
主に、『機密保持』や『知的財産』に関すること、『権利譲渡の禁止』などが対象となります。
26. 『有効期間』
⇒契約の有効期間、解約の申し入れ期間、自動更新など。
27.『協議事項』
⇒契約書内に定めのない事項につ いての当事者間協議に関する取り決め。
28.『合意管轄』
⇒紛争発生時に、当事者が管轄裁判所を合意する取り決め。
29. 『経過措置』
⇒本契約締結以前の基本契約や個別契約を無効にしたり、本契約の効果を以前の個別契約書にも適用させたりする取り決め。
④ 【後文】
⇒正本の数、契約書保有者など。
いわゆる「契約の締結の証として本書2通を…」というヤツです。
⑤【契約締結 日】
⇒契約締結日など。
⑥【記名押印】
⇒署名、記名押印など。(当ブログの『取引基本契約書①。』参照)
上記が主な取引基本契約 書の内容となります。
他にも契約条項として『安全防災環境管理』や『営業状況の報告』、『担保の提供』などが存在しますが、さし当たって重要な部 分を羅列しました。
ご覧のとおり、【取引基本契約書の内容】で前述した様に多くの形態の契約条項が混在しています。
例えば、取引 基本契約の中には、上記11.『貸与品』の生産機器等を貸与する『使用貸借』の様な典型契約や、取引上の機密情報の漏洩を防ぐ20.『機密保持』の様な非 典型契約などの様々な契約形態の条項が一体となって、企業間における特定の取引を総括的に拘束していることになります。
これで一通りの概要の説明とします。
それではまた次回。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書③。(前文、目的(基本原則))
今日は、前回の『取 引基本契約書②。(概要)』の続きです。
今日は契約書面の中の具体的な条項の説明として【前文】と【目 的(基本原則)】を文例とその説明という形で取り上げていきたいと思います。
基本的に両者とも、「これを書いていなければ法律上問題である」というものはありませんが、明確に記載していなければ、誰が契約の当事 者なのか、当該取引で何をどこまで扱うのかわからなくなり、契約に支障をきたします。
逆を言えば、それらの諸条件さえ満たしていれば、特に問題は ありません。
それでは以下、各条項の文例と説明です。↓
【前文】
パターン ①
『株式会社○○○○(以下「甲」という)と株式会社●●●●(以下「乙」という)とは、甲乙間の製品(以下「本件商品」という)の取引に関し、その基本的事項 を定めるため、次の通り契約を締結する。』
⇒契約の対象と範囲、契約の当事者を 明らかにした最もオーソドックスな前文です。
上記の取引の条件をこの一文で簡潔に表現し、焦点が絞られていれば、その後の条項の作成が容易になり ます。逆にこれらを明確にする内容を含んでいれば特に問題にはなりません。
パターン ②
『株式会社○○○○海外営業部(以下「甲」という)と株式会社●●●●ソリューション事業部(以下「乙」という)とは、甲乙間 の取引に関し、基本的事項を定めるため、次の通り基本契約を締結する。』
⇒契約 の主体となり得るのは、法的に権利能力、意思能力、行為能力を認められる自然人や法人(企業)なので、ここではあくまで『株式会社○○○○』と『株式会社●●●●』間の契約ですが、その条件では範囲 が大きくなってしまい、当該取引の内容を表現するには不適切だと考えられる場合、前文内でセクションを限定することで契約の範囲を限定することがありま す。
※権利能力⇒私法上の権利・義務の帰属主体となり得る資格。
※意思能力⇒有効に意思表示をする能力。自己の行為の結果を弁識できる精神的な能力。
※行為能力⇒単独で有効に法律行為をなし得る地位または資格。未成年は行為能力がない。
パターン③
『本契約は、本2007年1月1日に、中華人民共和国法に基づき設立された△△△△△△△△△△△△に住所を有する○○○○有限公司と、日本国法に基づき設立 された▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲に住所を有する●●●●株式会社との間で締結された。』
⇒国際取引などで用いられる前文(頭書)を日本語訳したものです。
国際取引の場合、間に商社などを挟むことが多いと思われます ので、日本語で契約書を提示しておけば、完全に投げっぱなしよりも自社の意図を伝えることができます。
ちなみに英文であれば、
『THIS AGREEMENT is made and entered into this 1st day of January 2007, by and between ○○○○ CO., LTD., a corporation organized and existing under the laws of China and having its registered office located at △△△△△△△△△△△△ and ●●●● Corporation a corporation organized and existing under the laws of Japan and having its registered office located at ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲.』
と いうような感じになります。
【目的(基本原則)】
パターン①
『甲(発注者)および乙(受注者)は、本契約に基づく取引を、相互繁栄の理念に基 づき、信義誠実の原則に従って行うものとする。』
⇒『信 義誠実の原則(しんぎせいじつのげんそく)』とは、契約などの一つの具体的事情において、相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであると いう法原則を言います。
『信義則(しんぎそく)』として略されることが多いので、時折、「信義則?」と首をひねる人が居ます。
資本主義社 会では、『商品としての物』と『その商品を手に入れるために必要なだけの金銭』というように交換により取引関係が成立しており、これは等しい価値を有する ものを相互に交換するという『等価交換』の概念が前提になっています。
この等価交換において一方に等価でない(不利益な)状況が発生しないよう、取引当事者が誠実に取引 を行うという心構えを明記します。
パターン②
『甲お(発注 者)よび乙(発注者)は、本契約に関して、法令および社会通念に基づく公正な取引関係を継続することにより相互の繁栄を図り、豊かな社会作りに貢献するも のとする。』
⇒近年の企業のコ ンプライアンスやCSRの 要請に対し、契約書内に社会から求められる企業像に応じる文言を加え、公正でクリーンな経営体制および取引関係を確立・推進する意思を明言し、契約書の体 裁を整えることを狙いとすることもあります。
パターン③
『甲(発注者)お よび乙(受注者)は、乙の甲に対する製品の納入に関し、良品のみを納入するという基本方針に基づき、乙の品質保証上の必要実施項目を定め、製品の品質の安 全と信頼性の確保を目的としてこの協定を締結する。』
⇒契約を締結する目的など により、条文の『目的』や『信義誠実の原則』もそれに特化させることがあります。
この場合は、品質保証に関しての特約です。
さて、本日はここまで。
また次回に続きます。
_______________________________________________________________________________
取 引基本契約書④。(個別契約)
さて、今日は前回の『取 引基本契約書③。(前文、目的(基本原則))』の続きです。
今回は個別契約条項に ついてです。
個別契約は、主に【個別契約の内容】、【個別契約の成立】、 【個別契約の変更】の三つの条項に分けて契約書内に盛り込むことが多く見受けられますが、その表現の仕方や構文は契約 書によりかなりまちまちです。
ものによっては【個別契約の内容】でかなり特殊な形態をとることもあります。
また、合理性を確保するため個 別契約が基本契約に優先されるという条項を設けることが一般的ですが、基本契約書は社内で充分検討した上で作成されるのに対して、個別契約は営業担当者に よって締結されたり、注文書とその承諾という手段を用いて、正式に書面として成文化したものを交換するというプロセスが省略することが多く、その場合、個 別契約と基本契約の抵触が発生した時に、基本契約を優先する旨を謳うことも契約の内容によっては合理的であると考えられ、臨機応変の対応が必要となりま す。
更に委託や請負などの性質を有する取引基本契約書である場合、『下 請法』の拘束があるので注意が必要です。
下請法では、個別契約書の作成の代わりとなることの多い『注 文書』に記載しなければならない事項が規定され義務付けられています。
その記載事項とは…
①親事業者(発注者)及び下請事業者(受注者)の名称
②製 造委託、修 理委託、情 報成果物作成委託又は役 務提供委託をした日
③下請事業者の給付の内容
④下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又 は期間)
⑤下請事業者の給付を受領する場所
⑥下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
⑦下請代 金の額(算定方法による記載も可)
⑧下請代金の支払期日
⑨手形を交付する場合は、その手形の金額(支払比率でも可)と手形の満期日
⑩ 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
⑪ 原材料等を有償支給する場合は。その品名、数量、対価、引渡日、引渡期日、決済方法
…など です。
①~⑨などは概ね基本契約にも盛り込まれていますが、⑩や⑪と併せて都度、注文書に記載しなければならないわけです。
下請法には、 上記の記載事項の他にも不当返品や買叩きの禁止、割引困難な手形の交付の禁止など様々な規定が存在します。
公 正取引委員会発行の下請法のガイドブックに注文書の作成例などもありますので、確認をお勧めします。
なお、国際売買取引の場合、一定期間に渡って継続される売買などで、国内契約と同じように『basic contract of sale(売買基本契約)』と『individual contract of sale(個別売買契約)』が作成されることがあり、基本契約側に国 際商業会議所(international Chamber of Commerce)が定める貿易基本条件『イ ンコタームズ』に絡む条文(引渡条件等)を盛り込むこともあります。
以下、文例を 記載しますが、かなり多岐に渡るため、【個別契約の内容】、【個別契約の成立】、【個別契約の変更】とも2つ3つ記載します。
【個別契約の内容】
パター ン①
『商品等の価格、売買数量、規格、受渡条件、その他の条件については、都度個別契約において取決める。』
⇒売主・受託者側優利の契約書の場合、個別契約の内容に関しては、商品の品名、数量、価格、引渡日、引渡場所などを定め、支払方法、 支払期日などは基本契約に定めておくのが一般的です。
売主や受託者側からしてみると個別契約ごとで支払期日や支払方法を定める形にすると、代金の 回収の条件がコロコロと変化してしまうのであまり好ましくないからです。
もちろん、上記の全てを個別契約において都度定める場合もあります。
パターン②
『個別契約において明文の定めのない限り、本契約の適用される個別契約は売買契約の性質を 有するものとする。ただし、注文書の支給品名ないし支給品目名欄に無償支給とある場合は、特別の事情のない限り、請負契約の性質を有するものとする。』
⇒特殊な例です。
個別契約となる注文書の記載事項の違いにより、基本契約に包含されつつも個別契約の形態が売買契約から請負 契約に変化しています。
※請負契約⇒受注者がある仕事を完成することを約し、発注者がその仕事の結果に対してこれに報酬を与えることを約すること によってその効力が生ずる諾 成・双 務契約。
『委託』が契約した業務の処理を行うことを目的とすることに対し、『請負』は契約 した内容の完成を目的とします。
【個別契約の成立】
パターン①
『甲(発注者)は、乙(受注者)から買い受ける商品の数量、単価、納期、納入場所、引渡し 条件その他の条件を決定し、書面(以下「注文書等」という)により乙に発注するものとし、乙がこれを承諾することによって個別契約が成立するものとする。
(2) 前項の発注に関して、注文書等が乙の手元に到達した日から7営業日以内に、乙の受諾拒否の意思表示が無い場合、乙の承諾がなされたものとする。』
⇒個別契約は、電話による買主の申込みと売主の承諾という口頭のみでも成立してしまいます。
記録として不明確なものはトラブ ルの元になりやすいので、買主や委託者から注文書の発行を行うのがベストです。
なお、請負に関わる一部の注文書などは課 税文書として収 入印紙を貼付けなければならないものが存在しますのでご注意ください。詳しく国 税庁の印紙税の一覧をご覧下さい。
パターン②の場合、甲からの注文書に対して、乙から注文請書などを発行してしまうと、乙の作成した注文 請書は前述の請負に関わる注文書となり課税文書としてみなされます。
節税対策を考慮するのであれば注文請書の発行は行わず、非課税文書の電子メー ルなどの使用により承諾の意思表示を行うようにするなど基本契約書内の対策が必要です。
また、発注者の発注依頼に対する受注者の諾否は、受注者側 からすれば、同じ日数であれば「~日以内」よりも「~営業日以内」の方が、間に休日などが挟みこまれる可能性を考えると当然に有利になります。
パターン②
『甲乙間の商品等の売買要綱は、次の通りとする。
①甲(発注者)は乙(受注者)に 対し、商品等の発注年月日、品番、数量、価格、納期、受渡場所等を明示した文書(以下「注文書等」という)により買受申込をする。
②乙は、前号の 注文書等の承諾、もしくは注文書等が到達した日から7営業日以内に受諾拒否の申し出をしない限り当該個別契約は成立したものとする。
③乙は、上記 各号による個別契約の内容に従い納品すると同時に、甲に商品名、規格、数量、価格、荷受人等を記入した納品書を交付する。
④甲は、前号の納品を受 けると同時に、商品等受領書を乙に交付する。』
⇒個別契約の成立要件の記載つい でに売買要綱を詳細に書く場合もあります。
パターン③
『個 別契約は、甲(発注者)所定の注文書または注文データをもって契約の申込みを行い、乙(受注者)がこれを承諾することにより成立する。
(2)乙 は、甲に対し注文書受領後7営業日以内または注文データ受信後7営業日以内に注文に対する諾否を通知するものとする。なお、当該期間内に乙が諾否の通知を 行わない場合には、乙がこれを承諾したものとみなし、当該注文にかかる個別契約は注文日に遡って成立する。』
⇒EDIな どの電 子商取引システム(オンライン受発注システム)は発注者の電子データによる発注と、それに対する受注者の電子データによる承諾通知が到達した時点 で成立(到 達主義)するとされます
(参照:『電 子商取引等に関する準則』)
【個別契約の変更】
パターン①
『甲(発注者)および乙(受注者)は、取扱い商品の仕様および数量などの個別契約事項に関 し、必要がある場合、書面による通知の上、個別契約の変更を行うものとする。
(2)前項により、甲および乙に著しい損害が発生し、甲乙協議の上、 補償内容を決定する。』
⇒パターン①は完全にニュートラルな条文となっていま す。
仕様などは買主が決定することが多いため、個別契約の変更は買主優位になりやすいですが、売主側としては、仕様の変更のタイミングや数量の過 不足などでトラブルが発生しないよう、書面による通知が条文内に存在しているかどうかの確認がポイントになると考えられます。
なお、個別契約の変 更は買主側などからの一方的なものも多いので、注意しなければなりません。
パターン ②
『個別契約の内容を変更する必要が生じた場合は、甲乙協議の上、変更するものとする。
(2)前項の変更に伴い損害が生 じた場合の負担等は、次の各号による。
①いずれの当事者も、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被ったときは、相手方に損害賠償を請求するこ とができる。
②甲乙双方の責に帰すべき又は帰すことができない事由によるときは、双方協議の上、決定するものとする。』
⇒個別契約による損害が発生した場合の損害賠償について、幾分明確にした条文です。
個別契約の変更方法それ自体は、書面など により変更を通知する旨がなく、甲乙協議という形になっています。トラブル発生時に重きを置いているとも言えます。
取引当事者間のパワーバランス 次第で不利益を被ることも多いので注意が必要です。
個別契約についてはまだまだ多 くの留意点が存在しますが、代表的なものを記載しました。
ではまた次回。
【Post Script】
閲覧者の皆様、ご贔屓にして頂 きありがとうございます。
最近、あるキーワードで検索されている方が多いようなので、その回答して、
『機 密保持契約書に収 入印紙は必要ありません。』
と、お伝えしておきます。
_______________________________________________________________________________
取 引基本契約書⑤。(納入、検収、受領、所有権、危険負担)
今回は納入、検収、受領、所 有権および危険負担の移転を取り上げます。
これらは切り離せない重要な条文です。
『所有権』および『危険負担』の意味 は概ね以下の通りになります。
『所有権』…物の使用・収益・処分を自由にすることのできる 物権(特定の物を直接的に支配する権利)で財産権(財産に関する権利の総称。経済的自由権の一つ。物権、知的財産権など)。
『危険負担』…双務契約(契約によって当事者の双方がお互いに対して債権をもち、債務を負う契約)において一方の債務が 履行できなくなった場合に、それと対価的関係にある債務も消滅するか否かという法律上の問題。
今回のポイントとして、『目的物の輸送⇒納入⇒検収・受領』の流れにおいて、危険負担と所有権がどのタイミングで受注者(売主や受託者 等)から発注者(買主や委託者等)に移転することになるのか?ということが挙げられます。
この一連の流れの中で、目的物に毀損や滅失が発生した場 合、危険負担や所有権が移転するタイミングによって損害を被る当事者および責任を負わなければならない当事者が変化してきます。
また、納入、検収・受領もその定義の区別をしっかりと行わなければなりません。
国語辞典においては、
『納入』…品物 や金を納めること。
『検収』…送り届けられた品を、数量・種類などを点検して受け取ること。
『受領』…受け納めること。受取ること。領 収。
と似たり寄ったりで区別の仕方がよくわかりません。
契約書面では、『納入』、 『検収』、『受領』の三語において、『検収』と『受領』は概ね同じ意味を持たせ、『納入』はその前段階であることが多いと感じます。
厳密に言う と、『納入(引渡し)』により目的物を発注者の事業所に搬入するための適正手続きに関する条文を設け、『検収』という検査プロセスと『受領』というその結 果を一つの条文としてまとめて設けているというのが正確だと思われます。
もちろん、丁寧に上記の三語に分かれて条文が明記されているというわけで はなく、【検収】や【受領】という一語で全てを括っている場合もあります。
ちなみに所有権は、『検収・受領』の終了に伴って移転されることが一般 的です。
以下、【納入】、【検収および受領】、【所有権および危険負担の移転】の文例を掲 載します。
【納入】
パターン①
『乙(受注者)は、目的物の納入に際しては甲(発注者)の指示する場所、手続き、包装手段によって納入を行う。
(2) 乙は、甲所定の手続きに従って納入し、甲の事業所その他甲の指定する納入場所における規則および甲または甲の指定する者の指示に従うものとする。
(3) 乙は、納期に目的物を納入出来ない恐れがある場合は、速やかにその理由、対策および納入予定等を甲に申し出ると共に甲の必要とする処置に努力するものと し、その実施のため、甲乙協議のうえ、対策を決定する。』
⇒オーソドックスな条 文ですが、納入遅延時の損害賠償が設けられていません。
製造業などにおいては、その製造品の原材料となる目的物の納入が遅延すると生産計画に狂い が生じ、売上に多大なダメージを被ることも考えられます。
そこで、『前各項により、甲(発注者)が損害を被った場合、甲は、乙(受注者)の責に帰 すべき事由による損害に関し、損害賠償を請求できるものとする。』という項を追加することがベストと考えられます。
『乙の責に帰すべき事由』とい う一文が存在する理由として、甲(発注者)の責任によるものや、第三者の責任、地震などの回避不可能な天変地異などによる納入遅延まで乙が賠償すべき損害 の対象とならないようにするためです。
特に受注者(ここでは『乙』)は、この不当な損害賠償の請求について注意が必要です。
パターン②
『甲(発注者)は、甲の商品を乙(受注者)の指定する場所において、乙に引渡すものとす る。
(2)乙は納品後5営業日以内に、乙の検査基準に基づく検査を行い、合格品のみを受領し、その結果を甲に通知するものとする。ただし、乙がこ の期間内に結果を通知しない場合、当該商品は合格したものとする。
(3)当該商品が、前項検査に合格しなかった場合、甲は速やかに自己の費用で当 該商品を引き取り、代品を納品するものとする。
(4)甲の責に帰すべき事由により、個別契約で定めた納期までに商品を納入できないと認められると きは速やかにその理由等を書面により乙に対し通知し、乙の指示を受けるものとする。』
⇒納入、検収、受領の要素を全て含んだ条文です。
ただ、『納入』と『検収および受領』というように分割しておいた方が、後々、 危険負担や所有権移転のタイミングを計算して明記しやすくなります。
納品した目的物が契約に規定されるクオリティを満たしているかどうかを検査す る際の基準となる『検査基準』は、供給者の取り扱う目的物を対象として、別途『検査基準書』として作成しておくことが一般的です。
検査基準書の作成は、目視検査、官能検査等の専門的な知識も必要となりますので、品質保証関連部門や技術関連部門に委託または連携が考えられます。
【検収および受領】
パターン①
『甲 (発注者)は、商品等の納入後速やかに数量、外観と内容について受入検査を実施し、合格したもののみを受領するものとし、甲は受入検査の結果、商品等に瑕 疵を発見したときは、ただちに乙(受注者)に通知するものとする。
(2)前項の通知を受けた乙は代品を納入するか、もしくは納入価格で買戻し処理 を行うものとする。
(3)乙は、甲による受入検査の結果、納入品に数量過不足が発生したときは、超過分は引き取り、不足分は追加納入を行うものと する。
(4)受入検査の結果について疑義または異議申立てがあるときは、受入検査終了後3営業日までに甲にその旨を申し出て、甲乙協議の上、解決 するものとする。』
⇒『検収・受領により目的物の所有権が受注者から発注者に移 転する』ということは、『検収・受領したと同時に発注者側に金銭債務(買掛金)が発生した』ということになります。
下請法においては、目的物の受領後60日以内に代金の支払を行わなければならない旨の規定が存 在しますので、それを超える支払期日を契約書内で設定してしまうと、下請法違反となります。
もちろん、その際には受注者側が下請法に規定される 『下請事業者(受注者)』に該当するかどうかが前提となります。
下請事業者の定義は、『下請代金支払遅延等防止法(略して『下請法』)』の第2条8項の各号と、第2条7項各号の『親事業者(発注者)』とを併せてご覧下さい。
ま た、この60日の期間を過ぎ、代金の支払いを遅延した場合、60日を超えた時から実際に支払われる日までの期間に年14.6%の利率で遅延損害金が掛かります。
これは利息の性質を有するものではなく、債務不履行による一種の損害賠償金となります。
ちなみに割賦販売 (分割払いによる売買)などは、割賦販売法により遅延損害金の上限が6%と規定されており、一概に14.6%というわけではありません。
パターン②
『甲(発注者)は、乙(受注者)が目的物を納入する際、甲が定める手続きにより受入検査を 行い、合格したもののみを受け入れる。
(2)甲は、前項の定めに関わらず、受入検査を除外する旨を別途定めた目的物については直ちに受領するもの とする。
(3)甲の受入検査の結果、数量の過不足、または不合格品を発見した場合、直ちに乙にその旨を通知し、乙は、甲の通知を受けた日から7営 業日以内に、自己の負担において過剰分の引き取り、不足分の納入、不合格品の引き取りと代品納入を行わなければならない。
(4)甲は。受入検査の 結果、不合格品になった目的物について、その不合格の事由が微細なものであり、かつ甲の工夫において使用可能であると認められる場合は、乙と協議のうえ、 価格を決定しこれを引き取ることができる。』
⇒検査不合格時の手続きを詳細化し ています。
なお、第4項に『特別採用』と言われる一文が追加されています。これは独立した条文として設けることも多いのですが、ここでは一つの条文にまとめています。
『特 別採用』とは、正に文字通りの内容で、本来採用しない不合格品を、特別に合格品と見なす可能性を示唆する規定です。
【所有権および危険負担の移転】
パターン①
『目 的物の所有権は検収をもって乙から甲(発注者)に移転する。
(2)危険負担は、目的物が甲に引き渡されたときをもって、乙(受注者)から甲に移転 する。』
⇒所有権の移転時期は、当事者間で決定することができます。
例 えば売買契約などにおいて、前述の通り所有権は検収・受領後に移転するのが一般的です。
引渡し時や発注者による売買代金の完済時などに移転するよ う取り決める場合もありますが、多数派ではありません。
代金完済時に所有権を移転する場合は、検収や受領を行った後でも、所有権は受注者側にあり ます。これを所有権留保といい、発注者側からの代金不払いがある場合、目的物の取戻し請求ができます。
取引される目的物の性質により、交渉のうえ、取り 決めるべきでしょう。
これに対して、危険負担は引渡し時(ここでは納入時)に移転することが大半です。
これは、目的物を発注者の事業所に 搬入した場合、受注者はその時点から事実上、目的物を管理することはできず、目的物を実質的に占有下においている当事者が危険負担を負う方が合理的であ り、公平であると考えられるためです。
危険負担を引渡し時に設定している場合は、所有権留保時でも危険負担は発注者にあります。
また、目 的物が当事者の責任によらず消滅した場合(例えば輸送中に発生した地震により焼失した場合など)、危険負担はどうなるのか?という問題が存在します。
目 的物が消滅したということは、その分の仕入原価や加工費が消滅しているわけで、このままでは受注者側に負担がかかります。そうであっても、発注者側にも当 然責任はないので、代金は支払わなくて良い(代金債務の消滅)とする意見を危険負担債務者主義と言います。
これとは逆に代金は支払わなくてはならないとする意見を危険負担債権者主義と言い、論説の分かれるところです。
ほとんどの取引では、条項を設け、危険負担債務者主義を採用しています。
パターン②
『目的物の所有権は、それが原料又は資材、半製品、完成品のいずれの状態にあるかを問わ ず、甲(発注者)に帰属する。
(2)目的物の危険負担は、第○条第○項の納入によって乙(受注者)から甲に移転する。
(3)乙は、目的物 の原料または資材の支給を受けた後、目的物を甲に対して引渡すまでの間、目的物の原料・資材、半製品、完成品を善良なる管理人の注意義務をもって保管しな ければならず、これらを第三者に対して、譲渡若しくは貸与し、又は担保に供してはならない。
(4)乙は、目的物の原料または資材、半製品、完成品 を保管している間は、それらが甲所有であることを示す適切な表示を施さねばならない。』
⇒製造委託契約の条文です
製造委託等、発注者が原材料を無償支給する場合、一般的に所有権が受注者に移転することはありません。
以 上、今回はここまでです。
では、また次回。
_______________________________________________________________________________
取 引基本契約書⑥。(品質保証、仕様)
今回は品質保証、仕様を取り上げます。
『品質保証』とは、契約内で明記された取引対象となる目的物において、発注者が要求する品質水準を維持することを受注者に保証させる 条項です。
製造業を中心に、PL 法や、QC(Quality Control)活動から国際基準のISO 9000シリーズの様な国際基準の品質管理体制導入の流れの影響が強い昨今では、基本契約内に品質保証に関しての一文を設け、別途、詳細な『品質保証協定書』を設けるスタイルも多く見受けます。
この品質保証協定書をまるまる記載すると、字数制限を超えますので、概要だ け記載すると、受注者の品質管理体制構築義務、仕様について、包装や輸送について、工程管理の合理化・最適化義務、発注者指示による受注者の完成検査の方 法、発注者による受入検査の方法、品質異常発生時の調査や是正措置、品質異常に起因する損害の補償についてなどが存在します。
※PL(product liability)法…製造物責任法。製造物の欠陥により損害が生じた場合の製造業者等の損害賠償責任について定めた法規
※Quality Control(品質管理)…顧客に提供する商品およびサービスの質を向上するための、企業の一連の活動体系
※ISO 9000シリーズ…ISO(国際標準化機構)が定めた、組織における品質管理システムに関する一連の国際規格群。企業などが顧客の求める製品やサービスを安定的に供給する仕組 みを確立し、その有効性を継続的に維持・改善するために要求される事項などを規定したもの
『仕様』とは、契約書においては、発注品の内容や図などを記載した、一般的に納入仕様図面や承認図面と呼ばれるものを指します。この記載された仕様どおりの目 的物を受注者に供給させる旨を約することがこの条項の目的となります。
図面や仕様書、規格書、その他の目的物の製造に関わる各種資料など、様々な 形で目的物の仕様を決定する書類が存在します。
また一概に図面や仕様書と言っても発注者が作成し受注者に貸与した上で、仕様書に記載された条件に より目的物を製造・供給させる場合(契約書内では総じて「貸与図面」と言ったりします)もありますし、受注者側が図面仕様書類を作成し、発注者が受領する 場合もあります。
以下、【品質保証】、【仕様】の文例を記載します。
【品質保証】
パターン①
『乙 (受注者)は、甲(発注者)に引き渡す目的物が第○条に定める仕様に適合し、甲および市 場の要求に満足する品質であることを保証する。
(2)乙は、目的物の不良等の品質上の問題発生を防ぐため、品質管理方法の改善に努めるものとし、 万一問題が生じた場合はその原因、要因その他必要事項の究明とその改善に努めるものとする。
(3)目的物に品質上に問題または問題発生のおそれが あると甲が判断した場合、甲は必要な範囲内において乙の同意を得てその品質管理体制を調査するとともに乙に指導または助言を与えることができる。
(4) 乙は、目的物の品質に影響を与えるおそれのある製造工程、製造方法、金型および材料等の変更については事前に甲に通知し、了解を得るものとする。乙が甲に 対して事前の通知および了解なしに製造し、目的物に問題が発生した場合には、甲は当該問題に対してなんらの責任を負わないものとする。』
(5)目 的物に不良が発見され、甲がその不良に対する対策を乙に要求した場合、乙はその原因を解析し、再発防止の処置を実施し、その結果を甲に報告する。』
⇒品質保証の取決めに関して、取引基本契約書内で完結させる代わりに、幾分内容を詳細化したものです。
特に留意点はありませ んが、第3項の『目的物に品質上に問題または問題発生のおそれがあると甲が判断した場合、甲は必要な範囲内において乙の同意を得てその品質管理体制を調査 する』という一文の中で、『乙(受注者)の同意を得る』という適正手続きの有無が重要になります。
この一文がない場合、甲(発注者)の思うがまま に乙(受注者)の事業所へ立ち入ることができるようになってしまいます。企業の機密を保持するという観点からは好ましくありません。
パターン②
『乙(受注者)は、甲(発注者)に引き渡す目的物が甲の仕様に適合し、甲および市場の要求 に満足する品質であることを保証する。
(2)本契約に定める事項のほか、目的物の品質保証に関しては、甲乙間で別途締結する『品質保証協定書』に よるものとする。』
⇒別途定める『品質保証協定書』に詳細を預けるパターンと なっています。
【仕様】
パターン①
『乙(受注者)は次の各号に準拠した仕様による目的物の供給を行わなければならない。
① 甲(発注者)が、乙に貸与した図面、仕様書、規格、諸企画書等および、これらに準ずる書類(以下「仕様書等」という)で、甲が作成し、乙に貸与したもの
② 乙が作成し、甲が受領した使用書等
③JIS 規格等の公に定められた規格および、法令・条例等に定められた基準
④前各号のほか、甲乙協議のうえ決定した基準
(2)乙は、目的 物の実際の製造、工程の設定および変更につき、あらかじめ甲の書面による確認を得るものとする。
(3)乙は、受注品の一部又は、全部の製造を第三 者に委託もしくは、請負わせる時は、甲の確認を得るものとする。
(4)仕様書等の管理については、甲乙それぞれ保管、厳重に管理するものとす る。』
⇒オーソドックスですが、最も簡潔にまとまっていると思われます。
印 紙税が課税される『契約書』とは契約の成立、更改、契約の内容の変更または補充の事実を証すべき文書を言います。
図面・仕様書などは受注者 が作成し、発注者に了解を得て承認印をもらうというような条文を設けてしまうと、その図面や仕様書は、上記の『契約の内容の変更または補充の事実を証すべ き文書』として課 税文書になってしまいます。
そこで、パターン①では『受領』というスタイルを採り、『承認を取る』という旨の文面は設けていませ ん。
更に『発注者は図面・仕様書等を受け取り、確認したことを証する受領印を押印する』というように明記していれば、承認印ではないと見なされ課 税文書になりません。
パターン②
『本製品の仕様は、甲乙が 事前に協議した上で、甲(発注者)が作成し、乙(受注者)に交付するものとする。
(2)甲は、本製品の仕様に変更の必要が生じたときは、乙と協議 の上、かかる仕様を変更できる。』
⇒かなり省略したパターンです。
こう いう場合であれば、いっそのこと別途で『仕様確認書』などを作成するという方法もあります。
以上、今回はここまで。
では、また次回。
_______________________________________________________________________________
取 引基本契約書⑦。(支給品)
今回は支給品を取り上げます。
『支給品』とは、その名の通り、取引さ れる目的物の製造等において発注者から受注者に支給される原材料や部分品を指します。
契約書内では一般的に、『原材料の支給』、『支給品の検 査』、『不良支給品の取扱い』などの条文に分けて記載されます。
主に、
『原材料の支給』条項によって、原材料の支給は存在するのか、無償 なのか有償なのか、特別な手続きにより受注者が自分自身で原材料を調達する場合があることを認めるのか、
『支給品の検査』条項によって、支給され た原材料の品質を検査する基準や、過不足があった場合はどうするのか、
『不良支給品の取り扱い』条項によって、支給品の検査によって発覚した支給 原材料の不良や過不足には代品納入や補修費用を出させるなど、いかにして対応するのか、
などを明記していくことになります。
な お、支給品には『無 償支給』と『有 償支給』という二種類の支給方法が存在します。
『無償支給』とは、発注者が、工事や製造に使用する材料の一部または全部を、代価 を取らずに受注者に支給することを言います。
これは、あくまで支給しているだけで譲渡したわけではありませんので、一般的に無償で支給された原材 料の所 有権は発注者に帰属したままになります。
この原材料の代価は、受注者が目的物を発注者に供給するときに、発注者が支払うべき目的物の購入 代金に支給品の価格が含まれないことが一般的です。
『有償支給』とは、前述の無償支給の逆に当たり、受注者が発注者から目的物の原材料を 購入することになります。
そのため、原材料の所有権は、契約内で取り決めた時点で発注者から受注者に移転されます。
この場合は、もちろん 発注者が受注者に支払うべき目的物の代金に、支給品の価格が含まれます。
なお、発注者は、下請法により有償支給の場合の支給品の代金を、契約内で 定められた目的物(製品)の支払期日から早めて受注者に請求または相殺することはできません。
また、支給品の取扱について、発注者から受 注者に無償支給した支給品が、受注者の保管管理の過程で毀損や滅失が発生している場合、当然ながら、受注者は発注者に対して損害賠償の責を負うことになり ます。
更に支給した原材料から必ずしも100%の割合で製品が出来上がるわけではありません。
受注先の生産力や、作業員の技術力やミスな どにより市場で売り物にならない不良製品が発生する可能性があります。
この原材料から出来上がった製品の量を、一般的に『出 来高』と呼びます。
契約書の支給品条項内に、予め製造・加工の過程で発生する許容可能な出来高に対する不良品の割合(損耗率)を規定して おくことで、規定値を超えて不良製品が発生した場合には、受注者が規定値超過分を負担する等の対策も考えられます。
以下、【支 給品】、【支給品の検査】、【不良支給品の取扱】の三つに分け て文例を記載します。
【支給品】
パターン①
『甲 (発注者)が乙(受注者)に対して目的物の製作、加工、組立等を委託する場合、原則として目的物を製造するのに必要な一切の原料および資材は、甲が乙に無 償で支給する。
(2)乙は、必要とする原料または資材の数量を、書面によって甲に対して通知し、甲は、この書面を受領後に、要求された原料・資材 を乙に引渡すものとする。
(3)乙は、甲から原料または資材の引渡を受けたときは、甲に対して受領証を交付する。
(4)乙は、本条の規定 によって甲から引渡を受けた原料または資材を、目的物を製造する目的にのみ使用するものとする。』
⇒オーソドックスな条文で す。
本来、原材料は受注者が独自で調達する方が、当該受注者にとっては有利になります。
というのも、自己調達であるほうがコストを考えて 原材料購入先を選定することができるからです。
反対に支給品である場合、受注者は独自で原材料購入先を選定できない分、コスト面を考慮することが できず、必要以上に費用がかかってしまう可能性があります。
そこで『下 請法』では、正当な理由がないのに、発注者が指示する原材料や部分品などを売主に有償支給などで強制的に購入させる等の行為を禁じています。
そ こで、例えば受注者に支給する原材料が、他社に加工させた仕掛品(企 業会計において、製造途中にある製品のこと)であったり、発注者が製造原価を引き下げることを考慮した前向きな支給などであれば、支給品として正 当であると考えられます。
パターン②
『甲(発注者)は、次の各号のいずれかに該当する場合は、乙(受注 者)と協議のうえ、納入品の製作・納入に必要な原材料、部分品(以下「支給品」という)を有償または無償で乙に支給することがある。
①納入品の品 質、機能、または規格を維持するために必要な場合
②乙から依頼がある場合
③その他正当な理由がある場合
(2)支給品の種類は次の 通りとする。
①甲が製作し、乙に支給する原材料または部分品
②甲がその指定業者から購入し、甲を経由して乙に支給する原材料または部品
③ 甲がその指定業者から購入し、甲を経由しないで直接乙に支給する原材料または部品
(3)有償支給品の価格については、甲乙協議してこれを決定する ものとする。
(4)第2号各号の支給品を乙に支給する場合、甲は、原則としてあらかじめ品番、数量、納期等を乙に通知するものとする。』
⇒ 支給品の支給基準と種類を設けた幾分詳細な条文例です。
【支給品の検査】
パ ターン①
『乙(受注者)は、前条により甲(発注者)から支給品を受領した場合は、受入検査を行い、不合格品または数量の過不足が 在る場合には、その旨と甲に通知するものし、甲乙協議のうえ対応を決定するものとする。』
⇒『取 引基本契約書⑤。(納入、検収、受領、所有権、危険負担)』で記載した『納入、受領』と同じく、支給品においても似たような問題が発生します。
た だ、くどいようですが、無償支給の場合、支給品の所有権は移転しないことが一般的です。
これは何を意味するかと言うと、発注者から受注者へ支給品 を引き渡した際に、所有権と同時に危険負担も移転していると考えられます。
つまり、受注者は支給された原材料を基に製品に加工し、発注者に売却す るまで支給品を適切に管理しなければなりません。
要は人のものを管理しなければならないことになります。
この場合、受注者には『善管注意 義務(善良な管理者としての注意義務)』が要求されると考えられます。
※注 意義務…ある行為をする際に一定の注意を払う義務
※善 良な管理者の注意義務…職業や生活状況に応じ要求される注意
パターン②
『甲(発注者)の実施する 原材料の納入・検査の手順については次のとおりとする。
①甲は、原材料の納入後、数量、品質等については、原材料の納入から7営業日以内に検査し なければならない。当該検査終了後、甲は検査合格品についてのみ受領する。
②甲は、原材料が検査に合格しないときは、前号の検査期限の翌日まで に、その旨を乙(受注者)に通知しなければならない。
③前号に定める期間内に通知がない場合は、乙は、品質、数量の瑕疵・不足等について免責され る。
④乙は、不合格の通知を受けた原材料について、直ちに自己の費用で引取り、代替品と取り替えるものとする。』
⇒支 給品の納入手順を明確にすることを重点とした条文です。
検査期間を設けることで、『直ちに検査しなければならない』などの曖昧な表現をなくしてい ます。
なお、第4号で支給品の中に不良品があった場合の取扱いも付け加えられています。
【不良支給品の 取扱い】
パターン①
『乙(受注者)は、検収により瑕疵ある支給品を発見した場合、甲 (発注者)の責に帰すべき事由による瑕疵であるものに限り、次の各号の請求を甲に行うことができる。
①乙は、甲に対し代品の納入を請求できる。
② 乙は、不良品を修理し、その費用を甲に請求できる。
(2)乙は、支給品の瑕疵により、乙に重大な損害が発生した場合には、甲に損害賠償を請求でき るものとする。』
⇒受注者は不良な支給品を供給されて、歩 留(ぶどまり。加工に際し、使用原材料に対する製品の出来高の割合)が悪いと言われては、たまったものではありません。
そこでパターン① のような条項を設けることになります。
パターン②
『乙(受注者)は、甲(発注者)の支給品に関し、検収に より瑕疵を発見した場合には、第○条(目的物の検収および受領)の第○項および同条第○項の手続き準用する。』
⇒目的物の検 収・受領時の不合格品発生時の手続きを、支給品にも流用した条文です。
以上、今回はここまで。
ではまた次回。
_______________________________________________________________________________
取 引基本契約書⑦。(支給品)
今回は貸与品、貸与図面を取り上げます。
『貸与品』とは、発注者が受注者に貸し付けた目的物の製作に必要な機械、設備などを言います。
貸与品は、発注者から受注者に 貸し付ける時に、そのスタイルによって性質が変化します。
つまり、貸与品は本来、発注者所有の資産であり、『貸し付ける』ということは原則として 発注者と受注者の間で契約を結ぶ必要性があることを示唆し、基本契約内のみでなく別途で契約を締結する場合もあります。
その貸付のための条項の内 容が有償か無償かによって、前者の場合は『賃 貸借契約』、後者の場合は『使 用貸借契約』の二つに分類されることになります。
※『賃貸借契約』…ある人(賃貸 人)が相手方(賃借人)に特定の物を使用させ、これに対して賃借人が賃料を支払う契約(有償契約、双務契約、諾成契約の性質を有する)
※『使用貸 借契約』…ある人(貸主)が相手方(借主)に特定の物を無償で引き渡し、借主が使用および収益後に貸主に返還する契約(無償契約、片務契約、要物契約の性 質を有する)
※『双 務契約』…契約の当事者が互いに対価的な債務を負う契約
※『片 務契約』…契約の当事者の一方のみが債務を負う契約
※『諾 成契約』…当事者の合意だけで成立する契約
※『要 物契約』…当事者の合意のほか、物の給付があって成立する契約(消 費貸借、使用貸借、寄 託)
よって、『賃貸借契約』により貸与品を貸し付けるということは、契約の当事者 同士による貸与品を貸す、借りるという意思表示をした時点で契約が成立(諾成契約)し、発注者が貸与品を引き渡すと同時に受注者に賃貸料が発生(有償契 約)する。
言い換えれば、発注者が貸与品を受注者に引き渡す債務と、受注者が発注者に賃貸料を払う債務が発生(双務契約)したということになりま す。
『使用貸借契約』により貸与品を貸し付けるということは、契約の当事者同士による貸与 品を貸す、借りるという意思表示をした後、実際に発注者が貸与品を受注者に引き渡した時点で契約が成立(要物契約)し、特に対価もなく受注者による使用お よび収益を終えると貸与品を返還(無償契約)させる。
言い換えれば、発注者が貸与品を受注者に引き渡さなければならない債務だけが発生(片務契 約)したということになります。
『貸与図面』とは、『取 引基本契約書⑥。(品質保証、仕様)』でも取り上げた、目的物の仕様を決定する図面で、発注者が受注者に、または受注者が発注者(納入図面)に貸 与するものを言います。
この貸与図面は、発注者側から、または受注者側からのどちらからの貸与の場合でも、図面自体は自社のノウハウの塊である場 合が多く、貸与する当事者(以下「貸与者」と言います。)からすると言うなれば契約の相手方以外の第三者にはできる限り秘匿にしておきたい機密事項となり ます。
そこで、貸与図面の条項には、『契約業務の遂行上、必要のある場合は図面を第三者に開示する際に貸与者に承諾を得る旨』もしくは『関係会社 や、下請業者などには開示を許可するが、その場合は、契約の当事者同士で取り交わされている機密保持条項と同じだけの機密保持義務を当該第三者にも遵守さ せる旨』という内容が盛り込まれ常套句とされます。
ただ、問題として、例えば関係会社と いっても、市場では貸与者とシェアが競合している競争相手であったり、契約の相手方に図面を貸与後、どのような会社が関連会社として連結されるか予 測不可能な場合があり、そういった第三者に機密保持義務さえ遵守させればいいというわけでもないので、『第三者へ貸与する際には、貸与者の承諾を得る』と いう条文は確実に盛り込んでおきたい内容になると想定されます。
以下、【貸与 品】、【貸与図面】の文例を記載します。
【貸与品】
パターン①
『甲(発注者)が必要と認めた場合、甲は個別契約の履行に使用する機械、工具、治具、金型 等(以下「貸与品」という)を乙(受注者)に貸与する。この場合、甲乙協議の上、別途契約を締結するか、あるいは乙は甲所定の借用書に記名捺印の上、甲に 提出するものとする。』
⇒とりあえずは貸与品について記載し、後に貸与品に関し て賃貸借もしくは使用貸借契約を締結する旨を設けています。
一般的には使用貸借が多いと考えられるので、使用貸借を締結することを前提として考え ると、当該契約書面には一般的に『目的、貸与品の詳細(物件名称や数量など)、使用の目的や管理、貸与品への付保、貸与品状況の報告義務、保守費用、貸与 品毀損時等の損害賠償、貸与品の返還、協議や管轄裁判所などの一般条項』などが盛り込まれます。
パターン②
『乙(受注者)は、貸与品の管理について、善良な管理者としての注意をもって管理し、甲(発 注者)の指示に従って他の物品との混同をさけるため必要な処置を取るものとする。
(2)乙は、予め甲の書面による同意を得て、乙の責任において貸 与品を第三者に再貸与することができる。
(3)乙は、予め甲の書面による同意を得ない限り、貸与品を個別契約の目的以外の用途に転用し、または第 三者に譲渡、質入等の処分をしてはならない。
(4)乙は、貸与期間終了後、直ちに貸与品を甲に返還しなければならない。
(5)乙は、甲の 所有に属する貸与品について、第三者より差押などの処分を受けたときは、それが甲の所有に属することを立証するとともに、直ちに甲に通知し、その指示に従 わなければならない。
(6)甲は、乙との協議のうえ、貸与品の保管状況、使用状況等を検査確認するため、乙の工場、作業所、事務所等に立ち入るこ とができる。』
⇒貸与品それ自体というよりは貸与品の扱いについて特化した条項 です。
貸与品の実際の取扱いを網羅的に記載しているため、現実にはもう少し詳細な取り決めを必要とするか協議が必要になり、それらの結果を何かし らの書面の形で残しておけば、トラブルの発生を軽減できると考えられます。
なお、『取 引基本契約書⑦。(支給品)』でも登場した『善 良な管理者としての注意義務(善 管注意義務)』が冒頭で使われていますが、契約の当事者の社会的立場などを考慮すると当然のことです。
パターン③
『甲(発注者)が乙(受注者)に貸与する工事器具(以下「貸与品」という)の品名、数量、 性能、引渡場所および引渡時期は、別途、使用貸借契約書に定めるところによる。
(2)貸与品の引渡しに当たっては、乙の立会いの上、甲の負担にお いて、当該貸与品を検査しなければならない。この場合において、当該検査の結果、その品名、数量、性能が使用貸借契約書の定めと異なるときは、乙は、その 旨を直ちに甲に通知しなければならない。
(3)乙は、貸与品の引渡しを受けた後、当該貸与品に第2項の検査により発見することが困難であった隠れ た瑕疵があり使用に適当でないと認めたときは、その旨を直ちに甲に通知しなければならない。
(4)甲は、乙から第2項又は前項の規定による通知を 受けた場合において、必要があると認められるときは、当該貸与品に代えて他の貸与品を引き渡し、貸与品の品名、数量、性能を変更するものとする。
(5) 甲は、前項に規定するほか、必要があると認めるときは、貸与品の品名、数量、性能、引渡場所または引渡時期を変更することができる。
(6)乙は、 貸与品を善良な管理者の注意をもって管理しなければならない。
(7)乙は、本契約終了後に貸与品を甲に返還しなければならない。
(8)乙 は、故意又は過失により貸与品が滅失若しくは毀損し、又はその返還が不可能となったときは、甲の指定した期間内に原状に復して返還し、又は返還に代えて損 害を賠償しなければならない。』
⇒貸与品の取扱いを更に詳しくした上で、毀損時 等の賠償についても記載しています。
【貸与図面】
パターン①
『乙(受注者)は、甲(発注者)から貸与された貸与図面を善良なる管理者の注意をもって保 管し、次の事項を遵守する。
①乙は、貸与図面を、甲の発注した個別契約の目的以外の用途に使用しない。
②乙は、予め甲の書面による承諾が ない限り、貸与図面を複写しまたは第三者に閲覧させ、貸与し、開示し、漏洩し、もしくは提供しない。
(2)乙は、甲の承諾を得て貸与図面を複写し たものも貸与図面として取り扱い、前項および事項を準用する。
(3)乙は、個別契約の終了、中止、変更等により貸与図面の返還を甲から求められた 場合、直ちにこれを甲に返還するものとする。』
⇒業務上で似たような条項をよく 見かけ、私自身も使うことの多い条項です。
貸与図面の複写に関しては、自社ノウハウを容易に複製・保管されるというのはやはり好ましくはないの で、承諾が必要とされる対象としています。
以上、今回はここまで。
ではまた次回。
_______________________________________________________________________________
取 引基本契約書⑧。(貸与品、貸与図面)
今回は貸与品、貸与図面を取り上げます。
『貸与品』とは、発注者が受注者に貸し付けた目的物の製作に必要な機械、設備などを言います。
貸与品は、発注者から受注者に 貸し付ける時に、そのスタイルによって性質が変化します。
つまり、貸与品は本来、発注者所有の資産であり、『貸し付ける』ということは原則として 発注者と受注者の間で契約を結ぶ必要性があることを示唆し、基本契約内のみでなく別途で契約を締結する場合もあります。
その貸付のための条項の内 容が有償か無償かによって、前者の場合は『賃 貸借契約』、後者の場合は『使 用貸借契約』の二つに分類されることになります。
※『賃貸借契約』…ある人(賃貸 人)が相手方(賃借人)に特定の物を使用させ、これに対して賃借人が賃料を支払う契約(有償契約、双務契約、諾成契約の性質を有する)
※『使用貸 借契約』…ある人(貸主)が相手方(借主)に特定の物を無償で引き渡し、借主が使用および収益後に貸主に返還する契約(無償契約、片務契約、要物契約の性 質を有する)
※『双 務契約』…契約の当事者が互いに対価的な債務を負う契約
※『片 務契約』…契約の当事者の一方のみが債務を負う契約
※『諾 成契約』…当事者の合意だけで成立する契約
※『要 物契約』…当事者の合意のほか、物の給付があって成立する契約(消 費貸借、使用貸借、寄 託)
よって、『賃貸借契約』により貸与品を貸し付けるということは、契約の当事者 同士による貸与品を貸す、借りるという意思表示をした時点で契約が成立(諾成契約)し、発注者が貸与品を引き渡すと同時に受注者に賃貸料が発生(有償契 約)する。
言い換えれば、発注者が貸与品を受注者に引き渡す債務と、受注者が発注者に賃貸料を払う債務が発生(双務契約)したということになりま す。
『使用貸借契約』により貸与品を貸し付けるということは、契約の当事者同士による貸与 品を貸す、借りるという意思表示をした後、実際に発注者が貸与品を受注者に引き渡した時点で契約が成立(要物契約)し、特に対価もなく受注者による使用お よび収益を終えると貸与品を返還(無償契約)させる。
言い換えれば、発注者が貸与品を受注者に引き渡さなければならない債務だけが発生(片務契 約)したということになります。
『貸与図面』とは、『取 引基本契約書⑥。(品質保証、仕様)』でも取り上げた、目的物の仕様を決定する図面で、発注者が受注者に、または受注者が発注者(納入図面)に貸 与するものを言います。
この貸与図面は、発注者側から、または受注者側からのどちらからの貸与の場合でも、図面自体は自社のノウハウの塊である場 合が多く、貸与する当事者(以下「貸与者」と言います。)からすると言うなれば契約の相手方以外の第三者にはできる限り秘匿にしておきたい機密事項となり ます。
そこで、貸与図面の条項には、『契約業務の遂行上、必要のある場合は図面を第三者に開示する際に貸与者に承諾を得る旨』もしくは『関係会社 や、下請業者などには開示を許可するが、その場合は、契約の当事者同士で取り交わされている機密保持条項と同じだけの機密保持義務を当該第三者にも遵守さ せる旨』という内容が盛り込まれ常套句とされます。
ただ、問題として、例えば関係会社と いっても、市場では貸与者とシェアが競合している競争相手であったり、契約の相手方に図面を貸与後、どのような会社が関連会社として連結されるか予 測不可能な場合があり、そういった第三者に機密保持義務さえ遵守させればいいというわけでもないので、『第三者へ貸与する際には、貸与者の承諾を得る』と いう条文は確実に盛り込んでおきたい内容になると想定されます。
以下、【貸与 品】、【貸与図面】の文例を記載します。
【貸与品】
パターン①
『甲(発注者)が必要と認めた場合、甲は個別契約の履行に使用する機械、工具、治具、金型 等(以下「貸与品」という)を乙(受注者)に貸与する。この場合、甲乙協議の上、別途契約を締結するか、あるいは乙は甲所定の借用書に記名捺印の上、甲に 提出するものとする。』
⇒とりあえずは貸与品について記載し、後に貸与品に関し て賃貸借もしくは使用貸借契約を締結する旨を設けています。
一般的には使用貸借が多いと考えられるので、使用貸借を締結することを前提として考え ると、当該契約書面には一般的に『目的、貸与品の詳細(物件名称や数量など)、使用の目的や管理、貸与品への付保、貸与品状況の報告義務、保守費用、貸与 品毀損時等の損害賠償、貸与品の返還、協議や管轄裁判所などの一般条項』などが盛り込まれます。
パターン②
『乙(受注者)は、貸与品の管理について、善良な管理者としての注意をもって管理し、甲(発 注者)の指示に従って他の物品との混同をさけるため必要な処置を取るものとする。
(2)乙は、予め甲の書面による同意を得て、乙の責任において貸 与品を第三者に再貸与することができる。
(3)乙は、予め甲の書面による同意を得ない限り、貸与品を個別契約の目的以外の用途に転用し、または第 三者に譲渡、質入等の処分をしてはならない。
(4)乙は、貸与期間終了後、直ちに貸与品を甲に返還しなければならない。
(5)乙は、甲の 所有に属する貸与品について、第三者より差押などの処分を受けたときは、それが甲の所有に属することを立証するとともに、直ちに甲に通知し、その指示に従 わなければならない。
(6)甲は、乙との協議のうえ、貸与品の保管状況、使用状況等を検査確認するため、乙の工場、作業所、事務所等に立ち入るこ とができる。』
⇒貸与品それ自体というよりは貸与品の扱いについて特化した条項 です。
貸与品の実際の取扱いを網羅的に記載しているため、現実にはもう少し詳細な取り決めを必要とするか協議が必要になり、それらの結果を何かし らの書面の形で残しておけば、トラブルの発生を軽減できると考えられます。
なお、『取 引基本契約書⑦。(支給品)』でも登場した『善 良な管理者としての注意義務(善 管注意義務)』が冒頭で使われていますが、契約の当事者の社会的立場などを考慮すると当然のことです。
パターン③
『甲(発注者)が乙(受注者)に貸与する工事器具(以下「貸与品」という)の品名、数量、 性能、引渡場所および引渡時期は、別途、使用貸借契約書に定めるところによる。
(2)貸与品の引渡しに当たっては、乙の立会いの上、甲の負担にお いて、当該貸与品を検査しなければならない。この場合において、当該検査の結果、その品名、数量、性能が使用貸借契約書の定めと異なるときは、乙は、その 旨を直ちに甲に通知しなければならない。
(3)乙は、貸与品の引渡しを受けた後、当該貸与品に第2項の検査により発見することが困難であった隠れ た瑕疵があり使用に適当でないと認めたときは、その旨を直ちに甲に通知しなければならない。
(4)甲は、乙から第2項又は前項の規定による通知を 受けた場合において、必要があると認められるときは、当該貸与品に代えて他の貸与品を引き渡し、貸与品の品名、数量、性能を変更するものとする。
(5) 甲は、前項に規定するほか、必要があると認めるときは、貸与品の品名、数量、性能、引渡場所または引渡時期を変更することができる。
(6)乙は、 貸与品を善良な管理者の注意をもって管理しなければならない。
(7)乙は、本契約終了後に貸与品を甲に返還しなければならない。
(8)乙 は、故意又は過失により貸与品が滅失若しくは毀損し、又はその返還が不可能となったときは、甲の指定した期間内に原状に復して返還し、又は返還に代えて損 害を賠償しなければならない。』
⇒貸与品の取扱いを更に詳しくした上で、毀損時 等の賠償についても記載しています。
【貸与図面】
パターン①
『乙(受注者)は、甲(発注者)から貸与された貸与図面を善良なる管理者の注意をもって保 管し、次の事項を遵守する。
①乙は、貸与図面を、甲の発注した個別契約の目的以外の用途に使用しない。
②乙は、予め甲の書面による承諾が ない限り、貸与図面を複写しまたは第三者に閲覧させ、貸与し、開示し、漏洩し、もしくは提供しない。
(2)乙は、甲の承諾を得て貸与図面を複写し たものも貸与図面として取り扱い、前項および事項を準用する。
(3)乙は、個別契約の終了、中止、変更等により貸与図面の返還を甲から求められた 場合、直ちにこれを甲に返還するものとする。』
⇒業務上で似たような条項をよく 見かけ、私自身も使うことの多い条項です。
貸与図面の複写に関しては、自社ノウハウを容易に複製・保管されるというのはやはり好ましくはないの で、承諾が必要とされる対象としています。
以上、今回はここまで。
ではまた次回。
_______________________________________________________________________________
取 引基本契約書⑨。(価格、支払い、相殺)
今日は目的物の価格、支払い、相 殺を取り上げます。
『目的物の価格』 とは、説明するまでもなく、文字通り契約の当事者間で取引される目的物の価格であり、逆から言えば、内容が商品であれサービスであれ、目的物は契約を締結 する根拠となるものなので、価格設定は契約事項の核となります。
公正な取引を期すため、発 注者からの一方的で世間一般から見て明らかに低い価格設定による不当な買いたたき(※1)などを防止するため、契約書面作成の事前段階で当事者による協議 のうえ、決定すべき事項です。
また上述の『買いたたき』は、受注者が下 請法に該当する下請事業者(下請法 第2条8項)である場合、発注者による違反行為となります。
(※1)親事業者の遵守事項(買いたた き)⇒下請法 第4条1項5号
『支払い』とは、発注者 の目的物の受領に対する受注者への代価の支払を指します。
支払に関する諸条件は、受注者が下請法に規定される下請事業者にあたる場合、以下の様な 制約がります。
①支払期日⇒下請事業者の経営が不安定にならないようにするため、親父業者(発注者)と下請事業者(受注者)は、取引開始前 に目的物の納入から60日以内という制限枠内で、できる限り早くの日に支払期日を決定することが義務付けられています。
②支払条件の書面 による交付⇒親父業者(発注者)は、支払期日を書面化し、下請事業者(受注者)に交付しなければなりません。これは、取引基本契約書内の条項として支払条 件を書面化することで事足ります。
『相 殺』とは、互いに相手方に対して同種の債権を持っている場合に、その債権・債務を対当額において消滅させることを言いま す。(民法 第505条)
相殺を行う条件として、
①債権が対立していること
②債権が同種であること
③債権が弁済期にある こと
④債権が有効に存在すること
⑤相殺を許す債権であること
の全てを満たす必要があり、その全条件を満たしており相殺可能の状態 にあることを『相 殺適状』と言います。
また相殺する側の債権を『自 働債権』といい、相殺される側の債権を『受 働債権』と呼びます。
よく使われる説明例として、「受注者が発注者に対して100万円の売掛金があり、発注者が受注者に対して50万円の売 掛金債権をもっている場合、発注者または受注者の一方的な意思表示により対当額を消滅させることができる」…つまり受注者の売掛金(債権)50万 円のみが残ることになります。
また、上記の民法に規定される相殺では、弁 済期(取引基本契約書では、概ね発注者の代金支払期日のことを指します)の到来が条件の一つになっており、裏を返せば弁済期まで待たなければなら ないので、債権管理がおざなりになりがちなうえ、早めの債権回収ができません。
そこで、弁済期の到来の有無にかかわらず、契約の当事者間で対立す る債権が発生した場合、いつでも相殺可能にできるという旨の条文を設けることがあります。
これを『相 殺予約』と言います。
以下、【価格(単価)】、【支払い】、【相殺】の条文例を記 載します。
【価格(単価)】
パターン①
『目的物の単価は、乙(受注者)から甲(発注者)に提出する見積書等に基づき、予め甲乙協 議のうえ決定するものとする。
(2)目的物の単価には、書面による特別の定めがない限り、目的物の製造にかかる費用以外の荷造運賃費、積み降ろし 費、契約の履行にかかる費用および保険料、その他一切の費用を含むものとする。
(3)単価決定の基礎となった目的物の数量、仕様、材料、納期、代 金支払等の条件を止むなく契約期間中に変更しなければならないときは、乙は、直ちに甲に通知しなければならない。この場合単価その他の条件については、再 度甲乙協議のうえ決定するものとする。』
⇒一つの基本契約書で取引される目的物 (商品等)は必ずしも一種類とは限らず、大概の場合、多くの種類の目的物を包括的に取引対象に含もうとするので、目的物の内訳を記した見積書等を別途で作 成する方が契約書自体は完結にまとまります。
ここで決定された単価設定が、基本契約締結後に開始される実際の個々の取引(個別契約)で、発注者に より発行される注文書に記載されるべき価格の基準となります。
また、この条文の第2項は、『価格』条項の一つのキーポイントで、『民法 第485条』では、『弁済の費用について別段の意思表示がない時は、その費用は債務者の負担とする』とあります。
これは、例えば契約書内で 「目的物の包装費や運送費などは発注者の負担とする」と規定されていない場合、原則として受注者の負担となることを意味しており、受注者側は注意 しなければならない一文となります。
取引基本契約書内では、この『民法 第485条』は取引で発生した債務(『目的物の受渡し』と『代価の支払』)を対象としているため、収入印紙代などは契約自体に関することは従来どおりの契 約当事者双方の負担となります。
パターン②
『甲(発注者) が乙(受注者)に対して販売する商品の品名、販売価格、仕入価格等の取引条件については、乙により作成され、甲乙協議のうえ決定された別途見積書のとおり とする。』
⇒更にギリギリまで文を削っています。
条文の内容が詳細であ れば、その筋書き通り進めることを基本として、契約の当事者が予断をもたないためにある種わかり易くて良いのですが、まさに『職人』というような街の工場 の社長さんなどには、小難しい内容を嫌う方もいらっしゃいますので…。
ただ、わかりやすいことは大事ですが、簡略化または抽象化すればするほど拡 大解釈も可能になり、権利や責任の所在がぼやけることもあるので、この条項に限ったことではありませんが相手方との関係性を鑑みて最良の表現のチョイスが 大切です。
【支払い】
パターン①
『目的物の支払期日、支払方法、有償支給原材料の決済等の条件は、甲乙別途協議の上、決定 するものとする。』
⇒取引の交渉段階において支払い条件を別途定めることを想定 した条文です。
つまり、契約書とは別で支払条件の合意書などが作成されることになります。
また、目的物によっては支払の条件を変えた方が 合理的である場合もあるので、注文書ごとに明確に表示することもあります。
この場合は、基本契約書内に支払条件が記載されていても、同基本契約書 内に「基本契約よりも個別契約が優先される旨」があれば、注文書に記載された支払条件が採用されることになります。
パターン②
『乙(受注者)は、目的物の代金について、毎月○日締め、翌月○日の条件で甲(発注者)に 支払うものとする。但し、支払日が日曜、祭日、休日等である場合、その前日に支払うものとする。
(2)個別契約においては前項と異なる支払い条件 を定めた場合、その支払い条件は当該個別契約に限り有効なものとする。
(3)乙は、甲より代金の支払いを受けた場合は、必ず領収証を甲に提出す る。
(4)甲が乙に対し債権を有するときは、甲は当該債権と甲の乙に対する債務の対当額につき相殺することができる。』
⇒契約書面内で必要最低限の支払条件を提示した条文です。
個別契約や相殺に関する項目も含んだ簡潔なタイプです。
【相殺】
パターン①
『甲 (発注者)は、目的物の代金支払時に乙(受注者)に対し債権を有する場合は、その対当額をもって相殺することができる。』
⇒もっともオーソドックスなタイプです。
ここで『民法 第506条(相殺の方法および効力)』を見てみると、
『相殺 は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件または期限を付することができない。
2.前 項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる』
とあります。
つまり、冒頭で説明した① から⑤の要件を満たしていることを前提とし、実際に相殺を行使するには上記の規定に則ることになります。
この様に法律によって定められた相殺を『法 定相殺』と言いますが、この規定は任意であり、絶対にこの通りでなければならないというわけではありません。
そこで契約書内で相殺の予約 などの条項を設けたりします。
この様に契約の当事者の合意による相殺を『相 殺契約』と言います。
パターン②
『第○条の弁済期 の到来、第○条の契約の解除による期限の利益の喪失、その他の事由によって乙(受注者)が甲(発注者)に対する債務を履行しなければならない場合には、甲 は、乙に対し負担する債務と乙に対し有する債権とをその弁済期の到来にかかわらず、いつでも対当額において相殺できるものとする。』
⇒相殺予約込みの条項です。
以上、今回はここまで。
ではまた次回。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書⑩。(遅延損害金、瑕疵担保責任)
さて、今日は、遅延損害金、瑕疵担保責任を取り上 げます。
『遅延損害金』とは、発注者と受注者の目的物 の取引において、発注者の代価の支払いが遅れる場合などを想定し、『支払期日の翌日から実際に支払われるまでの日数に年利○○%の割合で…』などの条件で 当該代価に一定の利率をかけたものを言います。
このように説明されると「遅延損害金って利息(※1)なんだ」と判断されると思われます。
し かし、この場合、単にそれだけではなく「発注者が代価の支払いを行わなかった」⇒「発注者が代金を支払うという債務を履行していない」⇒「受注者は支払わ れるべき代価を得ることができず、製造コスト等の負担だけが掛かってしまった」⇒「受注者の負担を賠償し、この取引が開始される前の状態に原状回復しなさ い」ということで、根本的には『損害賠償(※2)』にカテゴライズされます。
なお、例えば 製造委託などで、原状回復だけであれば製造にかかった諸コストだけを支払わせればよいと思われますが、遅延損害金による利率は、その目的物を販売した際の 利益見込みや、誠実に代価を支払わせるためのプレッシャーとしての強制力と考えられます。
ちなみに契約の当事者が下 請法による親父業者と下請事業者に該当する場合の遅延損害金の利率は14.6%となります。
上記に該当しない場合、商取引であれば、法律 で定められた6%の年利((※1)を参照)となりますが、異常に高い年利を設定した場合は公 序良俗違反となります。
(※1)利 息⇒法 定果実(物または元本の使用の対価として受取る金銭その他のもの。『天 然果実』の対義語。)の一種。
元本債権の所得として、元本額と債権の存続期間とに比例して支払われる金銭その他のもの。
当事者間 で決めることのできる利率を『約 定利率』と言いますが、違法な高利率から債務者を保護するため、『利 息制限法』により拘束されます。
約定利率がない場合の民法上で定められた利率(法 定利率)は年利5%、商法上(商行為による債権)では年利6%とされます。
(※2)損 害賠償⇒契約上での債務不履行や不法行為により一定の損害が生じた場合に、それを補填して損害がなかった場合と同じ状態に回復させること。
物 的でも精神的でも金銭で賠償されますが、精神的なものに対する賠償をいわゆる『慰謝料』と言います。
『瑕疵』とは、法律上で用いられる何らかの欠点や欠陥を指す用語です。
例えば、「瑕疵ある 意思表示」と言えば、「詐欺や脅迫によって促された意思表示」を指します。
この場合であれば「詐欺や脅迫」が欠点や欠陥と見なされていることにな ります。
では、『瑕疵担保責任』についてですが、「売 買などの契約の目的物が、通常持つべき性質や性能、品質などを欠いていた場合(瑕疵があった場合)に負うべき債務者(目的物を引渡す側)の責任」を言いま す。
この瑕疵が一般的な注意では見つけることができないもの(隠 れた瑕疵)である場合、その瑕疵の発見から1年以内であれば、発注者や買主側は契約の解除や損害賠償の請求が可能です。
この瑕疵担保責任の条項においては、発注者側からの視点と受注者側からの視点では留意すべき点が間逆です。
『民法 第566条3項』では、「前二項の場合において、契約の解除または損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。」 とあります。
『民法 第570条(債権の売主の担保責任)』では、目的物に隠れた瑕疵が合った場合、上記の同566条を準用する旨を謳っています。
566条では、目的 物に欠陥があった場合の損害賠償請求期間を、瑕疵を発見した日から『1年』とは言いきっておらず、『1年以内』となっています。
発注者(買主側) からしてみれば、できるだけ長い保証期間が欲しいために限度いっぱいの1年、受注者(売主側)からしてみれば、できる限り負担は負いたくないために1年の 期間を縮めて6ヶ月などで提示することがあります。
但し、商取引に関しては、商法の第526条によ り、損害賠償の請求期間は瑕疵を発見した時から6ヶ月以内と限定されています。
※特に【瑕疵担保責任】に関しては、発注者(買主)の視点からすると『クレーム補償』 の側面があります。
『クレーム補償』に関しては、相次ぐリコール(近年では『三菱自動車のリコール隠し』、 『トヨタ自動車のリコール放置』、『任天堂の家庭用ゲーム機『Wii』のリモコンストラップのリコール』など。)も予測した上で、取引基本契約書締結の キーポイントの一つとなるため、別途で記事を掲載する予定です。
以下、【遅 延損害金】、【瑕疵担保責任】の条文例を記載します。
【遅延損害 金】
パターン①
『甲(発注者)が、第○ 条の支払期日までに対価を支払わない場合は、天災その他やむを得ない事由による場合を除き、支払い期日の翌日から支払いをする完了する日までの日数に応 じ、その支払金額に対して年利6%の割合で計算した額を遅延損害金として支払わなければならない。』
⇒『商法 第514条』の法定利率に従った割合で規定しています。
更に損害金の支払条件を『遅延損害金として現金で支払わな ければならない。』とすると、より確実になります。
なお、冒頭で、いわゆる『不可抗力』による代価支払いの遅延の場合(つまり、発注者の責任では ない場合)を除く旨を設けていますが、損害賠償それ自体は『不可抗力』で免れる(抗 弁する)ことはできません。(民法 第419条3項)
また、同時に債権者(つまり代価の支払いを受ける権利を持つ受注者)は、実際に自分 に損害が発生していることを証明する必要(立 証責任)がなく、代価支払いが遅延しているというだけで、発注者に対して損害賠償を請求できます。(民法 第419条2項)
パターン②
『甲(発注者)が代金の支払いを怠ったときは、支払期日の翌日から完済するまで年 14.6%の割合による遅延損害金を乙(受注者)に支払うものとする。』
⇒下請 契約内の遅延損害金です。
下請法(厳密には、『下請法 第4条の2』に規定された『公 正取引委員会規則』に遵って)に記載される利率を設定しています。
【瑕 疵担保責任】
パターン①
『甲(発注者) は、目的物の受入検査合格の時から6ヶ月以内に目的物の隠れた瑕疵を発見し、直ちにその旨を乙(受注者)に通知したときは、乙は甲の指示に従い、速やかに 代品納入、修理、代金減額の措置をとらなければならない。
(2)前項の各措置は、目的物が甲から第三者に出荷済みのときは、甲が実施するものと し、乙は、甲の指示に従い必要な一切の援助を行うものとする。』
⇒俗に『瑕疵担 保責任』は『無 過失責任』の特性を有すると言われます。
『無過失責任』とは、過失がなくても責任を負わせる原理であり、目的物に瑕疵があった場合には、 受注者(売主)にミスがあろうがなかろうが損害賠償の責任を負わなければならず、契約解除の根拠にもなってしまいます。
また、後日のトラブルを回 避するためにも瑕疵に対する補償の範囲(補修、代品交換、受注者(売主)の費用負担など)を明確化しておくことをお勧めします。
※過失⇒この場 合、「自己の行為によって損害が発生することを予測できたのに、本人の不注意で予測せず、または予測できずに損害を回避するための手立てを怠ったこと。」 です。
パターン②
『目的物の検収後6ヶ月以内に乙(受注 者)または乙の製造業者の責に帰すべき事由により不具合が発生した場合には、乙は甲(発注者)の請求に基づき、乙の責任と負担において甲の指定する期日ま でにその不具合を補修もしくは代品を納入するものとする。
(2)検収後1年を超えた後、目的物の相当の耐用期間内において、乙または乙の製造業者 の責に帰すべき事由による重大な不具合が発見され、または発生した場合も前項を準用する。』
⇒同じく補償期間を6ヶ月間に止めています。
しかし、この補償期間は瑕疵を発見してからの損害賠償請求期間です。
この 期間を経過した後、例えば目的物が既にユーザーの手に渡った後に瑕疵が発見された場合には、リコールなどによりそれ相応の損害が発注者(買主)に発生しま す。
この点から考えると、瑕疵担保責任の補償期間後もその損害を回復させるために損害賠償を請求できると考えるのが合理的です。
以上、今回はここまで。
ではまた次回。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書番外編Ⅰ。(クレーム補償)
今回は、前回(取 引基本契約書⑩。(損害治遠近、瑕疵担保責任))でも掲載したクレーム補償(クレーム補償責 任、クレーム補償期間、クレーム認定、クレー ム補償の内容)を番外編として取り上げます。
『クレーム補償』とは、瑕 疵担保責任や製 造物責任を視野に入れ、目的物に何らかの瑕疵(欠陥)がある場合に、その目的物を供給した者、つまり受注者が、発注者とその納入先などの関係者に 対して負う概括的な補償責任であると考えられます。
『瑕疵担保責任』とは、「売買な どの契約の目的物が、通常持つべき性質や性能、品質などを欠いていた場合(瑕疵があった場合)に負うべき債務者(目的物を引渡す側)の責任」とさ れ、更に「取引上一般に要求される程度の注意をもってしても発見できない瑕疵(いわゆる「隠れた瑕疵」)」である場合に受注者が発注者に対 して負う担保責任を言います。
要するに、商品を受取った時などではパっと見で問題なく見えたものが、実際には内部の構成部品に欠陥があった場合な どに製造者(受注者)が負う責任のことを言います。
この瑕疵ある商品が市場に出回ってしまった場合に、製造元または販売元などが当該不良品の設 計・製造上の過誤などによる欠陥があることが判明したとして、不良品を回収することがあります。
これを一般的に『リ コール』と言います。
単に不良品が発生すれば回収すればいいというものではなく、日本においては、薬 事法や食 品衛生法により特定製品のリコールを行政機関が命令することもできるため、内容次第では企業の存続を揺るがす可能性があります。
(例:パ ロマ工業への消 費生活用製品安全法に基づく緊急回収命令)
『クレーム補償』条項は、上記のリコー ルも視野に入れ、
不良品によるクレームの補償責任を負う当事者は誰に当たるのか?
その当事者がクレーム発生時に補償の対応を行なわ なければならない期間はいつまでなのか?
クレームによる責任の範囲の認定などは誰がどう行うのか?
実際のクレームの補償内容はどのような ものにするのか?リコールの費用負担は?
などを取り決めることになります。
ま た、いわゆる『品 質保証協定書(またはクレーム補償協定書)』は、このクレームに関する条項に基づいて別途作成されることになります。
補償期間いついての 詳細(下記、【クレーム補償期間】参照)なども、品質保証協定書内に設けられることが一般的で、
取引基本契約書内の『品質保証』や『クレーム補 償』の条項⇒品質保証協定書の概要
品質保証協定書⇒取引基本契約書内の『品質保証』や『クレーム補償』の条項の詳細
という体裁を採ること が主流です。
また、『品質保証協定書』には品質管理に関する詳細を、『クレーム補償協定書』にはクレーム処理とその保証に関する詳細を分けて作成 することもあります。
以下、【クレーム補償責任】、【クレーム補償期間】、【クレーム認 定】【クレーム補償の内容】の条文例を記載します。
【クレーム補 償責任】
パターン①
『クレーム補償と は、次の各号のいずれかに該当する、乙(受注者)の責に帰すべき事由により発生した目的物の不具合、および当該目的物に起因して発生した不具合(以下、総 称して「不良品」という)により被った甲(発注者)または甲の納入先の損害に対する補償をいう。
①甲の工程内で市場に出る前に発見された不良品 (以下「工場クレーム品」という)
②甲の出荷により市場に出た後に発見された不良品(以下「市場クレーム品」という)
(2)乙は、前項に 規定されたクレームにより被った甲または甲の納入先の一切の損害につき、甲または甲の納入先に対し、補償の責を負うものとする。
(3)前項の規定 は、当該クレームが甲の責に帰すべき事由によって生じたときは、適用しないものとする。』
⇒まずはクレーム補償についての諸定義や諸範囲を特定します。
この条文に関しては、バリエーションがほぼ似通ったものであると 考えられます。
【クレーム補償期間】
パターン①
『乙(受注者)は、別途「品質保証協定書」その他において定める期間、クレーム補 償の責を負う。ただし、補償期間後といえども甲(発注者)が、甲または甲の納入先の商品の機能に重大な影響を及ぼすと認定し、かつ乙の責に帰すべきクレー ムが発生した場合には、引き続き乙が補償の責を負うものとする。』
⇒期間の詳細 に関しては、別途作成する『品質保証協定書』に預けています。
『瑕疵担保責任』の条項には、一般的に「目的物を納入した際に、直ちに品質検査を行 い、合格品のみを受領し、納入後1年以内に発見された目的物の欠陥は受注者に代金の減額等を請求できる」などという内容の文を設けます。
では、例 えばここでクレーム補償期間(瑕疵の保証期間)を1年としたとします。
この場合、納入してから1年以内に検査を行い、瑕疵がある場合は製造 元に通知し、求償しても良いという意味ではありません。
これは製造元が、クレームによる損害発生した場合に補償をしなければならない期間 が1年間と定められているだけで、検査や瑕疵発見時の通知などは常識的な範囲で早期に行わなければなりません。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/8c/1c8406edfddcc9002e160b751bb8d3e5.jpg
つまり民法(566条、570条)や商法(526条)の規定は、「発注者が直ちに瑕疵を発見することができなかった(隠れた瑕疵)場 合、受領日から1年以内の発見であれば受注者に代金減額などを請求できます」ということのみを想定しているのであって、瑕疵を発見しても1年以内であれば 通知などは後回しで構わないということにはならず、直ちに通知・求償を行わない場合は、契約の解除や損害賠償の請求が不可能になります。(商法 第526条)
なお、既に前回記事に記載した通り、民法では瑕疵担保責任の限度期間は1年、商法(商取引)では6ヶ月です。
これらの規定は 任意規定であるため、当事者の合意で期間を短縮したり、条項自体を省略することもできます。
【クレーム認定】
パターン①
『甲 (発注者)は、クレームに関し、次の各号についてそれぞれ認定するものとする。
①工場クレーム品および市場クレーム品についての不具合の存在
② 目的物を組み込んで使用した場合に不具合が発生した場合は、目的物のクレームに起因すること
③不具合に対する乙(受注者)の責任およびその範囲
④ 当該クレームが原因で甲の要した費用、甲の受けた損害額および乙の請求額
(2)前項の認定に対し異議がある場合には、乙は、速やかに書面により甲 にその旨申し出て、甲乙協議のうえ解決するものとする。』
⇒クレーム発生時のク レームに対する不具合の有無の確認や、クレーム対象の範囲の特定、当事者間の責任の範囲などを特定するために、甲(発注者)が認定できる対象を前もって取 り決めます。
受注者側からは、第2項の異議申し立ての有無が重要になります。
【クレーム補償の内容】
パ ターン①
『前項の認定に基づき、甲(発注者)は乙(受注者)に対し次の各号の補償を請求するものとする。
①甲は、不良品 については、乙に対し、代品の納入を請求できる。
②甲は、甲の社内外においての不良品の修復の乙に対し指示することができる。
③甲は、甲 が不良品を選別・修復するための要した費用を乙に対して請求することができる。
④甲は、人的損害その他前各号以外の一切の損害についても請求する ことができる。』
⇒こちらはそのままの内容です。
受注者側からは、一般 的な常識や業界の慣行を鑑みて損害賠償の範囲を制限するよう発注者と協議することがクレーム発生時に被る金銭的リスクの回避手段となります。
ま た、損害の拡大が予測される場合のリスクの回避のため、損害賠償額を予め取り決めておくこと(損 害賠償額の予定)も有効になります。
この場合、
①当事者の一方は債務不履行(この場合は、「目的物が契約にあ る品質レベルを満たしていない欠陥商品である」ということ)の事実のみを証明すればよい
②実損に係わらず、当事者も裁判所も金額の増減を行えない
③ 債務の遅行を求めたり、契約の解除は行える
などの効果があります。
以上、 今回はここまで。
では、また次回。
【Post Script】
商品の欠陥によりクレームが発生すると、最 悪の場合はリコールの様に回収費用の発生や損害賠償も含め、企業は窮地に陥ることもあります。
がしかし、これは企業側からは見えていなかった商品 の欠点を消費者の視点から見たが故に気付いたという場合も往々にして存在することを意味し、ビジネスチャンスと判断する人もいます。
いずれにしろ 誠実な対応が望まれるところです。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書⑪。(製造物責任、知的財産権の侵害、知的財産権の取扱い)
今回は、製造物責任、知的財産権の侵害、知 的財産権の取扱いについて記載します。
なお、取扱う題材の性質により、説明文がどうしても長くなってしまいますので、条例文の パターンは1つのみということでご了承下さい。
『製造物責任法』とは、1995年7月1日から施行され、製造物の欠陥による損害が発生した場合の製造元等の損害 賠償責任について規定した全6条からなる消費者保護のための法律で、PL(Product Liability)法と も呼ばれます。
特に発注者(買主)側から提示する契約書内では製造物責任条項が頻繁に存在するため、一つの重要なチェックポイントとなります。
また、当該法の2条にて『製造物』と『製造業者等』の定義についての規定があり、
『製造物』(PL法 第2条1項)⇒製造または加工された動産
『製造業者等』(PL法 第2条3項各号)⇒製造物を業として製造・加工・輸入した者、製造物の製造業者として製造物に氏名・商号・商標その他の表示をした者
とあ り、単に製造を委託した場合の製造元だけではなく、加工委託の加工元や輸入業者、OEMにより自社ブランドを付す発注者側にも責任の範囲が及ぶことになり ます。
※OEM⇒ 『Original Equipment Manufacturing』の略で他社ブランドの製品を製造すること。この条件による契約を『OEM 契約』という。
『知的財産権の侵害』 とは、取引により第三者の知的財産権を侵害した場合(例えば第三者が特許権を取得している商品の模造品を販売して、当該企業の収益に損害を与えた時な ど。)の取扱いについて定めたものです。
なお、『知的財産権』に関しては、当ブログ内記事『知的財産と経営戦略』をご参照下さい。
この条項の対象となる知的財産権は、主に『産業財産権(特許権、実用新案権、意匠 権、商標権)』と『著作権』となります。
もちろんそれ だけではなく、会社の商号であったり、植物の新品種に関するものなども存在します。
知的財産に関しては、特許庁(特許電子図書館)でその情報が公開されてお り、検索・閲覧可能ではありますが、日本国内だけでもその出願数、登録数の膨大さはハンパではありません。
まして、特許や意匠、特に商標などは海 外で権利化されることが多く、その数の多さから概要すら把握することが難しいのが現実です。
私も海外の検索システムを利用することがありますが、 欧米などに関しては英文表記が主流であるため問題は少なく、日本語検索サイトなどもあります。
しかし、例えば韓国特許情報院の韓国語特許検索(KIPRIS)などは、概ね英語で検索できますが、内容の詳 細まで閲覧するとハングル文字も登場します。
この様に場合によっては登録された権利の内容の理解すら容易ではないということもありますので、国内もさることながら特に海外の企業との契約においては、第三者への権利侵害に対して何でも補償する内容とならないよう受注者は注意しなければなりません。
一 体どういうものが存在するのかわからない上に、問題発生時に理解もままならないとなると危険極まりないというのが本音です。
『知的財産権の取扱い』とは、取引の中で発明や考案が生まれた場合、相手方に通知したり、権利化 する際の権利の帰属について規定した条項です。
取引を続ける中で発明や考案が生まれた場合、発注者および受注者が当該発明や考案に対してどれぐら い関与したか、言い方を変えればどれぐらい貢献したか(貢献度合いは発明や考案に対しての技術的思想の創作部分についてのみ考慮されます。) の度合いに基づいて、両者の権利の帰属割合を協議することになります。
この場合、いわゆる共同出願が行われる ことが多いのですが、一方が出願を拒否すると出願を行うことはできません。(特許法 第49条)
※共同出願⇒複数の者が出願人となり出願するこ と。権利化に成功した場合、出願人は最終的に権利者になるが、一般的に権利の持分は発明の貢献度合いに応じて決定される。
以下、【製造物責任】、【知的財産権の侵害】、【知 的財産権の取扱い】の条文例を記載します。
【製造物責任】
パターン①
『乙(受注者) は、目的物の欠陥に起因して、第三者の生命、身体または財産に損害を生じた場合、当該損害を賠償するものとする。なお、乙は、賠償すべき損害の範囲および 賠償額について、甲(発注者)に協議を申し入れることができるものとし、甲は、誠意をもってこれに対応するものとする。但し、次の各号の一に該当する場合 は、乙は責任を負わないものとする。
①乙が目的物を甲に引き渡した時点の科学・技術水準では、当該目的物の欠陥を認識することができなかった場合
② 目的物の欠陥が甲の設計指示に従ったことにより生じ、かつ当該欠陥が生じたことにつき乙の過失がない場合
③目的物の欠陥が公的機関の定めた基準に 従って製造したことに起因する場合
④目的物の欠陥が、改造または乙の定め使用、保管、廃棄等に関する諸条件に反したことに起因する場合
⑤ 目的物の欠陥が甲への引渡により生じた場合
⑥目的物の欠陥が生命、身体に危害を及ぼすおそれの強い製品または多大な物的損害を発生させるおそれの 強い製品に目的物が使用される場合で、事前に乙の同意を得ていない場合
(2)乙に対し第三者から直接に損害賠償請求がなされ、乙がこれを支払った 場合、前項に基づく乙の負担部分を越える額については、乙は甲に求償できるものとする。
(3)乙は、目的物の設計、製造、安全性評価および品質管 理に係わる技術資料、データ、規程等を甲への目的物納入後最低11年間保管し、甲の要求ある場合、速やかに必要な技術資料、データ、規程等を甲に提供しな ければならない。』
⇒製造物責任法の第5条には、
「第3条(製造物責 任)に規定する損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および賠償義務を知った時から3年間行わ ない時は、時効によって消滅する。その製造業者等が当該営造物を引き渡した時から10年を経過したときも、同様とする。」
と あります。
つまり、製造物の欠陥による損害が発生した場合の賠償金請求期間は最長で10年ということになります。
そこで、条文例の第3項 で製造物に関する資料の保存期間を11年間としています。(+1年なのは、期間の計算開始のタイミングを考慮して余裕を持たせているからです。)
実 際に製造物責任法に関する条項内で確認することの多い一文で、欠陥による損害が発生した際に製造物に関する資料を処分していることにより証拠隠滅と判断さ れることを防止するためです。
ただ、こういった資料、いわゆる社内文書と呼ばれるものは、自社の文 書管理規程などで保存期間を規定している場合も考えられるため、契約書内で『11年』と明記しても実際の文書管理実務とは乖離している可能性があ ります。
その際には、今後の一切の取引のことも鑑みて法律で定められた期間以上に自社規程を改訂するか、『目的物の設計、製造、安全性評価および 品質管理に係わる技術資料、データ、規程等を乙の社内規程の基準に基づいて保管し…』などのアレンジが有効であると考えられます。
【知的財産権の侵害】
パ ターン①
『乙(受注者)は目的物に関し、第三者との間で特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、その他一切の権利を侵害し ないように注意を払わなければならない。
(2)乙は第三者との間において前項の知的財産権の侵害が生じた場合、またはそのおそれがある場合には、 遅滞なく書面により甲に通知(発注者)しなければならない。
(3)乙は、第三者との間において紛争が生じた場合、自己の責任と費用負担において当 該紛争を解決するものとする。但し、当該紛争の原因が甲の指定する設計、仕様、具体的な指示等に起因する場合は、この限りではない。』
⇒取引契約において概ね対象になるであろう知的財産権は、産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)および著作権です。
こ れらの権利の概要は以下の通りです。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/10/1733d9710fb4f99d409f5b9d41f310b5.jpg
上記はあくまで日本国内においての条件であって、国によっては決定的な制度の違いが存在する場合もあります。
よく言 われるものとしては、特許制度において米国が採用している『先 発明主義』とその他の多くの国が採用している『先 願主義』の違いです。
簡単に言えば、『先発明主義』とは「先に発明等をなした方に権利を付与する」ということで、『先願主義』は「先に出 願した者に権利を付与する」というものです。
『先顔主義』に関しては、出願日が起点となるため、誰かが出願する前に既に同内容の物を発明して使用 していた者を保護する『先 使用権』という制度が存在します。
対して『先発明主義』には『先使用権』が存在しません。
これは、例えば同内容の特許権を日本で は使用できても、米国では使用できないという事体を招きます。
また、日本の現行法では、出 願日から1年6ヶ月以降に出願内容が公開(「出 願公開」と言います。)され、また、出願日から3年以内(旧法(2001年9月30日以前のも の)では7年以内)に、特許庁に権利化が可能かどうかを判断するための審査の請求(「審 査請求」と言います。)をしなければ権利化は不可能になります。
これに対して米国は、現行法では日本同様に出願後の期限が設定されていま す(出願日から20年)が、1995年6月7日以前に出願されたものは期限がありません。出願内容の公 開といった制度もありません。
そのため、どういったものが出願されているかわからず、市場で技術がある程度普及したところでいきなり権利化を行 い、その技術を使用している者に対して相応の対価または損害賠償をせまるという事件がありました。
これらは長い潜伏期間からある日突然浮上してく るため『サ ブマリン特許』と呼ばれています。
このような形で第三者の知的財産権を侵害した場合、簡単にはリスクを回避することが できません。
知的財産権の侵害の条項に関しては、重大な損失を回避できる様な責任負担で止めることができるよう、特に受注者には注意が必要となり ます。
【知的財産権の取扱い】
パターン①
『甲(発注者)および乙(受注者)が共同でなした発明、考案、意匠の創作、著作、その他の 技術成果の創作、および甲から開示された図面・仕様書・ノウハウ・アイデアその他の情報に基づきなした発明等の知的財産権の帰属、出願、利用等について は、甲乙協議のうえ決定するものとする。
(2)前項の甲から開示された図面・仕様書・ノウハウ・アイデアその他の情報に基づき発明等をなした場 合、速やかにその概要を書面をもって甲に通知するものとする。』
⇒共同出願では なく、一方に権利が帰属することになった場合、当該権利の使用の許可を求められることがあります。
このような、権利者が所有する知的財産権の中で も特に特許権について他者が使用することができる権利を『実 施権』と言います。
一般的に用いられる実施権は、『通 常実施権』と呼ばれるものが多く、これに対し、特に特許庁に登録することにより完全に排他的な権利として使用することができる 実施権を『専 用実施権』と言います。
通常実施権においては、誰もが同じように権利を実施することができるため、権利者と実施権者は 別途で『通常実施権設定契約』を締結し、その際に同時に独占的に使用できる旨を織り込むことがあります。
これ を『独 占的通常実施権』と呼びますが、当事者間の合意のみであり特許庁で登録されているわけではないため、第三者に対して専用実施権 よりも確実性があるとは言えません。(専用実施権による契約は『専用実施権設定契約』と言います。この場合、契約を締 結したものの特許庁への届出がなければ独占的通常実施権と同意であると考えられます。)
このように当事者間の合意で形成される特許権の実施権を『許 諾実施権』と言います。
以上、今回はここまで
では、また次回。
【Post Script】
今回の題材に関しては、余りにも長文になり制限字数を超えてしまうため、かなり省略しました。
知的財産に関しては、当ブログ内記事『知的財産と経営戦略』にも記載した様に、また別途記事を作成したいと考えています。
併せて、端折ったことにより若干ややこしい内容になって しまったことをお詫び申し上げます。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書⑫。(権利義務の譲渡禁止、機密の保持、再委託)
今回は権利義務の譲渡禁止、機密の保持、再 委託について記載します。
『権利義務の譲渡禁止』 とは、債権債務に関し、当該債権債務をそっくりそのまま第三者に譲り渡し、その第三者を債権者または債務者にさせることを禁止する条項を指します。
債 権に関しては、特に民法466条(債権の譲渡性)でその譲渡が認められています。
しかしながら、民 法466条2項では、
『前項の規定(「債権は譲渡できる」ということ)は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しな い。ただし、その意思表示は、善 意の第三者に対抗することができない。』
とあります。
これは、債務者の預かり知らぬところで債権が譲渡されていた場合、債権を譲 り受けた新債権者にどれだけ不当性を訴えても手の打ちようがないということになります。
旧債権者に対して債務を履行(例えば買主が売主指定の口座 に商品の代価を振り込む等)した後に、新債権者に債権が譲渡されていた場合、二重払いになりかねません。
また、債権ではなく、第三者が債務を譲り受ける場合は、一般的に『債 務引受け』と言います。
民法による規定はないものの、判例などでは認められており、①免 責的債務引受、②重 畳的債務引受、③履 行引受の3種類に分類されます。
※免責的債務引受⇒ある債務者の債務を同一性を失 わないまま引受人に移転し、当該債務者は債務を免れることをいう。この場合の契約は以下の条件で成立する。
■引受人・債務者・債権者の三 面契約で成立
■債務者の意思に反しない限り、引受人と債権者のみの契約で成立
■債権者の承諾を得れば引受人と債務者で契約成立。 承諾を得ずに債務者と引受人で契約した場合、後に債権者が承諾すれば有効、しなければ無効とされる
※重畳的債務引受(併存的債務引受)⇒ある債務者の債務を引受人がその債務者とともに負担し、連 帯債務とすることをいう。この場合の契約は以下の条件で成立する。
■引受人・債務者・債権者の三面契約で成立
■債務者の意思に反 しても、引受人と債権者のみの契約で成立
■債権者にとって連帯により債務者が増えることは利益になるが、債権者からその利益を受ける意思表示を得 ることを条件として、引受人と債務者で契約可能
※履行引受⇒引受人が債務者に代わって債務 を履行する契約をいう。引受人は債務者にとの契約により債務者に対してのみ履行義務を負うので、債権者に対しては何等義務を負わない。
『機密の保持』とは、取引関係において知りえた相手方の営業上、技術上の機密の漏洩を防止するこ とを謳った条項です。
上記の『営業上、技術上の機密』は、主に『営 業秘密』と言われ、知的財産の一部となります。
これらの営業秘密も踏まえた上で、例えば、製造委託者による生産現場の 品質管理体制の立入調査や、請負による下請法でいう下請事業者がその請負業務を遂行するために相手方事業所内で常駐した場合など、自社の機密の一切が漏洩 しやすい状態にある場合、取引基本契約書内の簡易な条項のみで止めることなく、機密情報となる対象の取り扱い、関係会社や再委託先などへの機密保持を順守 させる旨、賠償責任等を網羅した『機 密保持契約書』を締結することが一般的です。
なお、この機密保持契約書はNDA(Non-Disclosure Agreement)とも呼ばれ、国際取引では頻繁に飛び交うことになる文書名です。
『再委託』とは、発注者から注文を受けた受注者が第三者に更に委託を行うことを言います。
契 約書ごとに大きな変動が見られない条項ではありますが、基本的には、
①完全に再委託を禁止する
②受注者が再委託を行う際には発注者に承諾 を得る
③受注者が発注者の許可を取らずに再委託を行う
という3つのパターンに分かれます。
発注者からすると、受注者の企業として の信用や技術力、生産力などを考慮して委託先として選定しているわけですから、発注者の与り知らぬところで再委託が行われることは好ましくありません。
な ので、一般的には上記②の内容を含む条文が用いられます。
ただ、現実的に発注者が委託先や再委託先の技術面に関する専門知識などを有しない場合、 『発注者の承諾を得る』としても、発注者には再委託の可否を判断するための基準が在りません(再委託先の経営状況や実績ぐらいでしか判断できません。)。
こ のような場合には、再委託先に関して受注者が全面的に責任を負う形で、上記③の内容で条項を盛り込むこともあります。
以下、【権利義務の譲渡禁止】、【機密の保持】、【再 委託】について条文例を記載します。
【権利義 務の譲渡禁止】
パターン①
『甲(発注 者)および乙(受注者)は、書面による相手方の承諾を得た場合を除き、本契約もしくは個別契約から生ずる権利、義務の全部または一部を第三者に譲渡し、ま たは担保に供してはならない。』
⇒冒頭で述べたように債権は譲渡が可能であると 民法466条で認められています。
例えば、パターン①の条文であれば目的物を甲に受け渡し、その代価の支払いを請求できる乙の金銭債権などを第三 者に譲渡することです。
ただ、この規定は債務者の預かり知らぬところで債 権譲渡契約などにより債権者から第三者に譲渡を行なうことが可能になります。
そこで上記のパターン①の様に『書面によ る相手方の承諾を得た場合を除き』という一文が入ります。
しかしながら、これを無視し譲渡を行った場合、旧債権者には責任を追及できますが、新債 権者(『善意の第三者』である場合)には不可能です。
※善意⇒「知らないこと」。これに対 し悪意は「知っていること」。基本的には確定したものではなく疑いを抱いていたとしても善意とされる。上記の場合の『善意の第三者』は、『甲と乙との契約 内容に乙が違反しているとは知らずに債権を譲り受けた第三者(新債権者)』ということになる。
また、指 名債権(債権者、債務者が特定している債権)の譲渡には関しては、一定の必要条件があります。
①指名債権について譲渡 を行なう旨の通知を譲渡人(債権者)から債務者に行なう、または債務者の承諾を得る
②通知または承諾を行う際に譲渡日の確定した日付のある証書に よって行なわれること
これらは債務者保護を目的としているが故のものです。(民法467条)
債権の形 がどうであれ、債権譲渡を行なう際には基本的には上記2つの手続きを行なっておくことがベストであることは間違いありません。
※債権⇒特定人が特定人に対して一定の財産上の行為(給付)を要求する権利。契約が主な発生原因となるが、事務管理、不 当利得、不 法行為も発生原因となる。なお、債権は特定の債務者にしか主張できない相対的権利。これに対し物 件は全ての人に主張できる絶対的権利。
※指名債権⇒債権者、債務者が特定している債権。要するに普通の債権。
【機密の保持】
パターン①
『甲 (発注者)および乙(受注者)は、本契約を遂行するうえで知り得た相手方の営業上、技術上の知識を、本契約中はもちろん、本契約終了後においても他に漏洩 または開示してはならない。』
⇒最も簡素化した条文です。
取引基本契約 書に先行して、または同時に『機密保持契約書』を締結することも頻繁に行われるため、取引基本契約書内では最低限に止める場合があります。
また、 後日のトラブルを回避するためには、例えば、相手方に提供する資料などで機密となりえるものは明確にそれとわかる表示(例えば『機密情報』や『極秘』な ど)を行うなどの作業が必要となります。
そうでなければ当条項が形骸化する可能性があります。
これは、機密文書の主管部門(統括管理セク ションや各セクション内の管理担当者など)や管理方法、保管年数などの社内での文書管理体制などともシンクロするため、未整備であればでき得る限り早めの 対応が重要となります。
昨今では、情報漏洩は企業にとって命取りになりかねません。
パ ターン②
『甲(発注者)および乙(受注者)は、本契約および個別契約の存続期間中ならびに契約の終了後においても本契約および個 別契約により知り得た相手方の機密情報を第三者に開示、漏洩してはならない。
但し、次の各号のいずれかに該当する情報は、この限りではない。
① 開示の時点ですでに公知のもの、又は乙の責めによらず公知となった情報
②乙が事前に甲の承諾を得て公開した情報
③第三者から機密保持義務 を負うことなく乙が正当に入手した情報
④開示の時点ですでに乙が保持している情報
⑤開示及び作業上知り得たすべての機密情報によらない で、乙が独自に創作した情報』
⇒もはや常套句となっている条文です。
機 密情報の開示、漏洩を防止することは当然として、その中で除外となる情報の対象を特に明記したものです。
【再委託】
パターン①
『乙 (受注者)が目的物の製作、加工、組み立て等の全部または一部を第三者に委託する場合には、事前に甲(発注者)の承諾を得なければならない。
(2) 前項の場合、乙は、支払い条件等甲乙間に特有の定めを除き、本契約において乙が甲に対して負う義務と同一の義務を乙に対して負う旨の約諾を当該第三者から 取り付けるものとし、当該第三者が義務に違反したときは、乙は甲に対し自己の義務違反と同様の責任を負うものとする。』
⇒受注者が再委託を行う際に発注者に承諾を得るパターンです。
受注者が第三者に再委託を行う際には、受注者自 身が契約によって遵守すべき機密保持義務や目的物の品質保証などの種々の責任の一切を同様に当該第三者に負わせ、実際に損害が発生した場合には受注者に求 償することが当然と考えられます。
更に、受注者が更に別の第三者に再委託を行ったり、再委託先が更に再々委託を行ったりすることを考慮し、発注者 では管理の手が届かなくなることを加味した上で、受注者がその管理監督責任を負う形にしています。
パターン②
『乙(発注者)は、甲(発注者)が指定する部品および工程を除き、目的物の製造および加工の 一部を乙の取引先に再委託することができる。
(2)前項の場合といえども、乙は、目的物の品質、機密保持、知的財産の取扱い等に関し、本契約およ び個別契約の履行義務を免れることはできない。』
⇒受注者が発注者の許可 を取らずに再委託を行うパターンです。
やはり第三者に関しての責任は受注者が負う形にしています。
以上、今回はここまで。
では、また次回。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書⑬。(契約の解除、期限の利益の喪失、通知義務)
今回は契約の解除、期限の利益の喪失、通 知義務について記載します。
『契約の解 除』とは、契約が有効に締結された後に、契約当事者の一方だけの意思表示(法定解除の場合)、または当事 者双方の合意(約定解除の場合)によって、契約が初めから存在しなかったと同様の法律効果を生じさせることを指します。
ま た、解除を行使できる権利を解 除権といいます。
※法 定解除権⇒法律の規定により発生する解除権(民法540条)。契約ごとに限定されたもの(民法561条~568条、570条)と、債 務不履行一般に基づくもの(民法541条~543条)がある。
※約 定解除権⇒当事者間の合意で発生する解除権(民法540条)。約定解除の場合も、法定解除の規定(民法541条~543条)を除いて、民法の解除 に関する規定(民法540条、544条~548条)が適用される。
また、賃貸借契約の解除 (民法620条)、雇用契約の解除(民法630条)等は過去まで遡ることはありません。
民法の条文内の文言では『解除』 となっていますが、過去に遡って契約を無かったことする『解除』に対して、これらのような過去から現在までの契 約は有効なままで、現在から将来に向かってのみ契約を消滅させることを『解 約』(『告 知』とも言う)と言います。
民法上でも上記に関係する条文(民法617条、619条、627条、629条、 631条)では『解約』と表現されています。
契約書面上では、意図的に文言を使い分けられていることは少な く、ほとんど『解除』で統一されていますが、上記の賃貸借や雇用等の場合は当然ながら将来に向かってのみ解除の効力を 発生することになります。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/02/5672bd4c78d9113560e1ec593d8a2354.jpg
『期限の利益の喪失』とは、支払条件に関する条項などで取り決めた支払期日を無しにしてしまうこ とを言います。
例えば12月31日を支払期日とした場合、債務者(支払う側)からしてみると債務の発生日から12月31日まで支払いの猶予がある ということになります。
これは債務者に期日的な面で利益が与えられているということに他なりません。
それ故、債権者は支払期日までは支払 いを強制することは不可能となります。
しかしながら、債務者が契約違反や信用に欠ける行為を行い、それに基づき債権者が契約を解除した場合などに は、債務者の利益を期日まで保護し続ける必要はありません。
そこで、特定の条件が発生した際に、早期に債権を回収することを目的として期日 を喪失させる条項を盛り込むことになります。
『通知義務』 とは、取引先において経営上および取引上の重要な変更があった場合に、相手方に速やかに通知を行なうことを取り決めた条項です。
企業の合 併や分 社、商 号や代表者の変更などにより、取引先の経営状況や取引の状況自体に変化が発生することがあります。
特に経営上の変更などで、取引先の経営 状況が悪化する場合、もう一方の当事者にとってみれば、債権回収が不可能になる等の危険性が増加することになります。
ましてや取引先が、取引して いる事業から撤退する等の経営方針の変更を行った場合、速やかに通知が届かなければ、一定の期間、自社の商品の流通がストップする危険性も存在します。
以下、【契約の解除】、【期限の利益の喪失】、【通 知義務】の条文例を記載します。
【契約の解除】
パターン①
『甲(発注者)および乙(受注者)は、相手方に以下の事由が生じた場合には、何ら事前の通 知、催告を要せず、直ちに本契約および個別契約の全部または一部を解除することができる。
①本契約および個別契約の条項に違反した相手方が、書面 による催告を受領した後1ヶ月間以内にかかる違反を治癒しなかった場合
②監督官庁より営業の取消、停止等の処分を受けたとき
③支払 停止もしくは支払不能の状態に陥ったとき、手形または小切手が不渡りとなったとき
④差押、仮差押、仮 処分、その他の強制執行、または競売の申立があったとき
⑤破産、会社更生、民 事再生の手続開始の申立を自ら行ったとき、又は申立てられたとき
⑥公租公課の滞納処分等を受けたとき
⑦解散の決議、合併、もしく は会社の財産の全部又は重要な一部を第三者に譲渡(事業譲渡または会社分割)したとき
⑧相手方に対する詐術その他配 信行為があったとき
⑨災害、労働争議等、本契約または個別契約の履行を困難にする事項が生じたとき
⑩前各号に準ずる不信用 な事由があったとき
(2)甲および乙は、前項に関わらず、本契約および個別契約を解除する必要が生じたときは、3ヶ月前までに、相手方に書面で通 知することにより当該契約を解除することができる。』
⇒最も頻繁に使われる解除 に関する条項ですが、第2項にいわゆる『任意解除』も盛り込まれています。
『任意解除』 とは、解除事由に当てはまる当てはまらないを問わず、規定の期日(上記のパターンでは解除の3ヶ月前)までに相手に意思表示をすることで契約を解除するこ とです。
ただ、多くの取引は企業同士の信頼関係で成り立っています。
必ずしも契約の内容に基づいた権利義務だけで機械的に取引が行なわれ ているわけではありません(特に日本の場合)。
言うまでもないとは思われますが、適正な期日までに通知するというだけではなく、相手方との 事前交渉のうえで解除の通知をすることが社会通念上の常識であると考えられます。
な お、以下にパターン①の条文例の中に登場する専門用語(下線の部分)の一覧を掲載しますのでご確認下さい。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/60/960f336e45462ad76524fdf89132b035.jpg
【期限の利益の喪失】
パ ターン①
『甲(発注者)または乙(受注者)に第○条第○項の各号の一(解除に関する条項のこと)に該当する事由が生じたときは、 甲または乙は甲乙間の取引により生じた相手方に対する一切の債務について、期限の利益を喪失するものとする。』
⇒前条に規定される(ことの多い)解除条項に連動して盛り込んだ条文です。
つまり、『第○条第○項の各号の一』の部分には 『契約の解除』の条番号および項番号が入ります。
パターン②
『甲 (発注者)または乙(受注者)は、第○条第○項の各号の一(解除に関する条項のこと)に該当する事由があるとき、相手方に対し負担する一切の債務につき期 限の利益を喪失するものとし、債務の全てを直ちに相手方に弁済しなければならない。本契約または個別契約が解除されたときも同様とする。』
⇒表現方法を変えたパターンです。
【通知義 務】
パターン①
『甲(発注者)および乙 (受注者)は次の各号のいずれかに該当する事実が生じたときは、速やかに相手方に通知しなければならない。
①第○条第○項の各号のいずれか(解除 に関する条項のこと)に該当したとき
②取引に関連ある事業を譲渡し、または譲り受けたとき
③住所、代表者、商号その他取引上の重要な変更 が生じたとき』
⇒第1号は、契約内の解除事由に該当した際の通知義務を指しま す。
第2号は、いわゆる『事業譲渡』の際の通知義務を指します。
旧商 法では商 人・会社の区別なく『営 業譲渡』という用語を使用していましたが、新 会社法では商人一般については『営業譲渡』、会社については『事業譲渡』 という用語を使用しています。
第3号は、定款に記載される取引先自体の諸事項の変更とその他の重要事項についての通知義務を指します。
以上、今回はここまで。
では、また次回。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書⑭。(損害賠償責任、残存条項、有効期間)
今回は、損害賠償責任、残存条項、有 効期間について記載します。
『損 害賠償』とは、契約上の債務不履行や不法行為により一定の損害が生じた場合に、それを?補(てんぽ。不足を補うこ と。)して、損害がなかった状態と同一の状態にすることを言います。
損害が財産的なものでも精神的なものでも金銭で賠償するのが原則で、過失相殺や損益相殺も考慮の上、相当の因果関係がある範囲で賠償金の金額が決定さ れます。
※損害⇒不法行為が無かった場合に存在したであろう利益状態と、不法行為により発生した利益状態の差額のこと。
※債務不 履行⇒債務者が正当な理由もないのに債務を履行しないこと。
※不法行為(民法709条)⇒自己の不注意などによって他人の身体や財産に損害を加え てしまうこと。
※過失相殺⇒損害を被った者(債権者)にも過失があった場合、当該過失を加味して加害者(債務者)が負担する賠償金を減額するこ と。
※損益相殺⇒不法行為や債務不履行によって損害を被った者(債権者)が、同様の不法行為や債務不履行により利益を受ける・受けている場合、当 該利益額を控除することにより賠償金を減額すること。
また民法420条(賠 償額の予定)により、損害賠償における賠償金の金額は予め取り決めることができます。
これは、取引される目的物の特性から発生した損害に 対する損害額の算定が困難な場合、賠償金額を証明しなければならない(立 証責任)とされる被害者(債権者)は大変な労力を伴うことになります。
例えば、業務管理システムの開発導入の請負契約などの場合、開発・ 導入したシステムに欠陥があり消費者の個人情報や社内機密が漏洩した場合の損害は計り知れず、容易に損害の範囲を特定し賠償金額を算定できるものではあり ません。
こういう場合、前述のように予め別紙にでも賠償金額を算定しておく手法が考えられますが、契約当事者の力関係によって、どちらか一方に重 い負担を科すような公 序良俗違反と判断されかねない不当に過大な請求額にならないよう注意が必要です。
『残存条項』 とは、契約が終了した場合においても、継続して効力がある法律関係を当事者間で取り決めたものです。
一般的に、効果が持続させられる契約条項とし て、『瑕 疵担保責任(ク レーム補償)』、『知 的財産権の取扱い(知的財産権の帰属や第三者の権利侵害)』、『権 利義務の譲渡禁止』、『秘 密保持』、『第三者への目的物販売の禁止』、『図面等の取扱い』、『製 造物責任』などがあります。
残存条項として効果を継続させる上で、取引の実体と乖離することの無いよう、また、一方の当事者に対して不当 な効果継続とならないよう留意した上で盛り込むことが重要となります。
『有効期間』とは、契約が効力 もつ期間のことを指します。
取引基本契約書のように継続した取引を想定した契約では、概ね、契約の締結日、もしくは特定の日から1~3年の 有効期間とし、有効期間の満了日が到来した際には、一定の期限までに契約当事者のどちらか一方から申し入れの無い場合、同様の条件で1年間自動更新され、 以後同様の更新が繰り返されるというパターンが多勢を占めます。
契約満了時に都度、取引内容の確認や合意、契約書を作成する手間を省略す ることを目的として上記のような契約の自動更新を盛り込みます。
また、契約の更新に対する当事者の申し入れ(契約の解約など)期限に関しては、契 約の満了日の1~3ヶ月前までに行わなければならない旨も併せて盛り込みます。
契約書内に『有効期間』に関する記載されていない場合は、原 則的にいつでも契約を解除できるとされますが、いつでもどこでも一方的に可能ではなく、相手方に取引関係を破綻させるような不信行為がある場合を条件とす る判例が存在します。
以下、【損害賠償責任】、【残存条項】、 【有効期間】の条文例を記載します。
【損害賠償責任】
パ ターン①
『甲(発注者)または乙(受注者)は、第○条に基づき本契約もしくは個別契約を解除し、または相手方が本契約もしくは個 別契約に違反した場合、これにより被った直接かつ現実に生じた損害の賠償を相手方に請求できるものとする。』
⇒契約書の損害賠 償に関する条項に関しては、契約の解除における損害賠償についての一文が盛り込まれることが良く在ります。
これは、例えば契約の債務の不履行によ り損害が発生した場合、契約を解除するだけでは損害を補うことができない場合があります。
民法545条3項に は、『解 除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。』とあります。
そこで、同法に準拠し、契約書内にも解除後であっても損害賠償の請求が可能であ る旨を謳います。
つまり、当事者同士による特約というものではなく、民法の条文を反復しているものです。
パターン②
『乙 (受注者)の責に帰すべき事由に基づき、甲(発注者)が被害を被ったときは、乙は、直ちにその損害の賠償をしなければならない。
(2)荷受人よ り、数量又は品質に付き不服の申し立てがあった場合は、甲乙協力のうえ、処理するものとする。』
⇒パターン②は、目的物の輸送 に関する契約の損害賠償条項です。
本契約(商品輸送)では、主に損害が発生する可能性は受注者の債務不履行や債務の履行の過程によることがほとん どであると考えられるため、一方的な損害賠償の形となっています。
受注者側としては、少なくとも『甲(発注者)が損害を被った場合、甲の責 に帰すべき事由を除き、乙(受注者)は直ちにその損害の賠償をしなければならない。』というような、下線の部分が盛り込まれているかどうかの チェックが必要となります。
【残存条項】
パターン①
『本 契約がいかなる事由により終了した場合においても、有効に存続している個別契約について本契約の次の各条項は引き続き有効とする。
①第○条(ク レーム補償責任)
②第○条(知的財産権の取扱い)
③第○条(権利義務の譲渡禁止)
④第○条(秘密の保持)』
⇒ 特記するべきことはありませんが、『機 密の保持』と『知 的財産権の取扱い』および、有形物として商品を取扱うことを業とされる方の場合は『瑕 疵担保責任(ク レーム補償)』も盛り込むことなどがベストだと考えられます。
上記に関しては、存続させる意味が容易にご理解頂けると思います。
パ ターン②
『甲(発注者)および乙(受注者)は、本契約の有効期間の満了後または解除後においても第○条の機密保持の義務を負 う。』
⇒契約の両当事者に対し、機密保持の義務だけを存続させる極簡単な残存条項です。
【有 効期間】
パターン①
『本契約の期間は、締結日から1年間とするが、期間 満了の1ヶ月前までに、契約を更新しない旨の書面による意思表示が当事者の一方から相手方になされないときは、本契約は、同一条件でさらに1年間自動的に 延長されるものとし、以後も同様とする。』
⇒最も一般な形です。
なお、契約を更新しない申し入れを行なう時には、でき る限り書面で行なうべきだと考えられます。
書面として残すことで、言った言わないの余計なトラブルを回避します。
余談ですが、日本の裁判 では、口頭合意でも事実や第三者の意見を積み重ねるという手間の掛かった手段で真実を導き出していきますが(だからといって口頭で済ませればいいという訳 ではありません。)、日系企業内でもここ最近増えだした対中契約などでは、裁判によるに紛争解決において口頭合意などまず意味を成しません。
中国 では契約法により口頭合意を認めていますが、現時点ではあまり信用するべきではありません。
日本国内の契約であっても、とにかくなんらかの 法律行為を行う時は書面で残す癖を付けておくことはとても重要です。
パターン②
『本契約の有効期 間は、締結日から1年間とする。但し、甲(発注者)および乙(受注者)は、期間満了の1ヶ月前までに文書による契約内容の改訂、契約解除の申し入れがない ときは、本契約は自動的に1年間延長されるものとし、その後も同様とする。
(2)甲および乙は、本契約の終了後であっても現に存在する個別契約に ついて、当該個別契約の履行が完了するまでは本契約の効力は存続するものとする。』
⇒パターン①と同様に一般的なものですが、 第2項に基本契約の有効期間が満了しても、当該基本契約に基づく個別契約が依然として存在している場合には、その個別契約が終了するまでは当該基本契約の 影響下にある旨の一文を追加しています。
以上、今回はここまで。
では、また次回。
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書⑮。(管轄裁判所、協議事項、経過措置)
今回は管轄裁判所、協議事項、経 過措置を取り上げます。
『管轄裁判所』 とは、契約の内容により紛争が発生した場合に、解決を図るための機関について取り決めた条項で、民事訴訟法第11条に 「当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。」と任 意管轄(の内の合 意管轄)を認める規定が設けられています。
また、この任意管轄に対して、公共的理由により支 払督促の申立て(簡易裁判所)など予め裁判所が特定されているものは専 属管轄と言い、この任意管轄と専属管轄を総称して法 定管轄と言います。
この法定管轄(法立によって定められた裁判所の管轄)には、裁判所で取扱う事件の内容によって以下 の3種類の観点から当該事件を担当する裁判所が絞り込まれることになります。
この様に事件ごとに特定の裁判所がこれを取扱う権利を管轄権と呼びま す。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/c5/7162fa30ce45e04c9cd939e014837c47.jpg
また、知財に関してですが、特 許権、実 用新案権、回 路配置利用権またはプログラムの著作物についての著 作権の訴訟は、
①名 古屋高等裁判所、仙 台高等裁判所、札 幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所に土地管轄が認められる事件については、東 京地方裁判所(控訴は東 京高等裁判所)が専属管轄
②広 島高等裁判所、福 岡高等裁判所、高 松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所に土地管轄が認められる事件については、大 阪地方裁判所(控訴は大 阪高等裁判所)が専属管轄
と限定されています。(民事訴訟法 第6条)
意 匠権、商 標権、著作者の権利(プログラムの著作物についての著作者の権利は除く)、出 版権、著 作隣接権もしくは育 成権に関する訴訟、営業上の利益の侵害に係る訴訟は、
①名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所、札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁 判所および、東京地方裁判所が専属管轄
②広島高等裁判所、福岡高等裁判所、高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所および、大阪地方裁判 所が専属管轄
と限定されています。(民事訴訟法 第6条の2)
『協議事項』とは、契約書内で取り決めていない事項や、契約の内容の解釈で食い違いが発生した時な どに、契約の当事者同士の協議で解決を目的とした条項を言います。
つまり、契約書は、その契約による取引で発生するであろう事柄を事前に予見して 成文化しているものなので、その予見の範囲が及ばなかった事柄をカバーする目的があると言えます。
当然ながら当事者の意思よりも法律の規定が優先 する強 行規定に関しては、協議による解決の効力は及びません。
『経過措 置』とは、取引基本契約(以下「新基本契約」といいます)を締結する以前に、同様の基本契約(以下「旧基本契約」といいます)などを締 結していた場合、旧基本契約の効力を新基本契約の締結と同時に失効させることを意図した条項です。
旧基本契約時に締結されていた個別契約も、新基 本契約に準じる形にしているものを多く見かけますが、これは新しい契約書であればあるほど現行の法に合致したものであるため、手続面や安全面などでメリッ トが多いからであると考えられます。
以下、【管轄裁判所】、 【協議事項】、【経過措置】の条文例を記載します。
【管轄裁判所】
パターン①
『甲 (発注者)および乙(受注者)は、本契約に関して紛争が生じた場合には、○○地方裁判所を管轄裁判所とすることに合意する。』
⇒交渉の上、管轄裁判所を決定する条文例で、最もフェアであると考えられます。
パターン②
『甲(発注者)および乙(受注者)は、本契約に関して紛争が生じた場合には、甲の本社所在地 を管轄する地方裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とすることに合意する。』
⇒こ ちらは発注者(買主等)提示方の条文例です。
説明の必要はないと思われますが、甲にとって有利で乙にとっては不利になります。
乙は裁判所 が遠隔地である場合、当該紛争によるコストが増加することも考えられるため熟慮しなければなりません。
パターン③
『本契約または個別契約に関し当事者間で発生するいかなる紛争、論争、意見の相違についても 相互協議により両当事者間で解決されるものとする。かかる相互努力により解決できない紛争、論争または意見の相違は、社団法人日本商事仲裁協会の手続規則 に従い、日本国東京における仲裁により最終的に解決されるものとし、仲裁で使用される言語は日本語とする。当該仲裁判断は最終的なものであり、且つ、本契 約の当事者を拘束するものとする。』
⇒パターン③は、裁判所による紛争解決では なく、俗に『仲 裁』と呼ばれる手段を用いて紛争の解決を目指す条文例となっており、国際取引契約の大半で用いられていると言われています。
仲裁とは、紛 争当事者の合意により仲 裁人を選出し、その仲裁人の判断によって紛争を解決することを言います。
仲裁人の判断が最終決定となるため、当事者は異議を申し立てるこ とはできません。
裁判判決による強 制執行は、例えば日本であれば裁判所が出した判決の強制執行は基本的に日本でしか強制力がなく、また、中国の様に『執行難』と揶揄されるほど強制 執行が行われにくい国では、裁判を行っても時間がかかっただけという結果になってしまう可能性があります。
他国内で裁判を行い勝訴判決を得ること が強制執行を最も行いやすい手段であるとは思われますが、控訴なども考えると旅費や現地法に詳しい弁護士等の報酬など発生するコストが莫大なものになると 考えられるので、一般的に一度で終了する仲裁が利用されます。
なお、日本側の企業としては、日本商事仲裁協会で仲裁が行なわれることが最も有利であると考えられますが、やは り相手方から簡単には承諾を得られないことが多く、この場合に用いられる手段として、両者から等距離にある第三国の仲裁機関や、異議を申し立てた側 が相手方の国の仲裁機関で仲裁を行なう場合の条項がなどがあります。
特に後者は、一方が異議申し立てを行なっても仲裁に関しては相手方に 有利な条件であるため、訴えの濫用に対し抑止力になることが考えられ頻繁に用いられます。
【協議事項】
パターン①
『本 契約もしくは個別解約に定めのない事項、その他本契約もしくは個別契約各条項の解釈に疑義を生じた場合は、その都度甲(発注者)乙(受注者)協議のうえ決 定する。』
⇒定めのない事項および条項の疑義に関し、協議を行なう旨の条文例で す。
国内では頻繁に見かけ、欧米契約ではもっとも見かけない、しかしながらアジア圏ではちらほら見かけることになるという民族性のおもしろさを感 じさせてくれる条文です。
パターン②
『本契約に定めのない 事項が生じたとき、もしくは本契約各条項の解釈について疑義が生じたときは、甲(発注者)乙(受注者)誠意を持って協議の上これを解決する。』
⇒別のパターンの条文例です。
【経過措置】
パターン①
『本契約の締結以前に甲(発注者)乙(受注者)間で締結した取引に関する基本契約がある場 合は、本契約の締結をもってその効力を失うものとする。』
⇒一般的な経過措置の 条文です。
契約が切り替わるタイミングのコンセンサスきちんと得ておくことが重要です。
パターン②
『本契約の締結以前に甲(発注者)乙(受注者)間で締結した取引に関する基本契約がある場合 は、本契約の締結をもってその効力を失うものとし、当該基本契約に基づき甲乙間で締結した個別契約は本契約を適用するものとする。』
⇒個別契約の履行に関して、新基本契約に準じる形にした条文です。
ただ、個別契約の締結は注文書とそれに対する承諾という形 に変えられることが多いため、個別契約には金銭の債権債務が関っていることがほとんどです。
そこで新基本契約に準じる形にすると債権債務にどのよ うな変化が起きるのか事前に確認し、旧基本契約時に締結された個別契約に対し、新旧どちらの基本契約を適用させるのかを熟慮した条文にしなければなりませ ん。
以上、今回はここまで。
では、また次回。
_______________________________________________________________________________
取 引基本契約書⑯。(後文、契約書作成日、当事者記名押印)
今回は、後文、契約書作成日、当 事者記名押印について掲載します。
『後文』 とは、契約書内の契約条項の締めくくりに明記されることの多く、主に契約書の作成数と保管当事者について記載されます。
かといって、それだけとい うわけでもなく、判子文化のない英語圏などを想定して『本契約の証として、本契約当事者は正式に権限を有する代表者として本書に署名せしめた。』 という一文になることもります。
『契約書作成日』と は、文字通り契約書を作成し記名押印した日のことを指します。
契約書内で有効期間の始期を定めなかった場合、「契約書作成日」= 「契約締結日(調印日)」として有効期間の始期になります。
ただ、「契 約締結日(調印日)」が「当事者間で合意した日」と勘違いされ ることがよくあります。
契約は口頭(諾 成契約)であっても成立するので、契約書は本来、当事者で合意した事項を書面化して証明・証拠化したものにすぎません。
契約の効力 が発生する日を契約書内に記載していない場合は契約書作成日が発生日となります。
『当 事者記名押印』とは、契約書の最後を締め括る契約当事者同士の意思確認です。
一般的に『当事者の住所』、『当事者が法人であれ ば社名および代表者の役職と氏名』、『当事者が個人であれば氏名』などを記載します。
日本国内では原則として最後に押印するので、住所や代表者の 氏名等もタイピングや判子によるものでもかまいません。
最終的な押印は、本来、実 印を使います。
案外、実印と認 印の区別が付いていない方が多いのですが、実印は法人であれば法務局(個人であれば市町村役場)に 届け出て登録されている会社の代表者印のことで、同機関に依頼すれば印 鑑証明書という公に認められている印鑑であることを証明する文書を発行してくれます。(もちろん費用が掛かります。)
逆 に認印は公の機関に届出がされていない印鑑で、当然ながら証拠能力は弱くなります。
「契約書に捺すのは実印 だ!」と言ってみたところで、印鑑証明書がなければ事前に実印かどうかわからず相 手を信用するしかありません。
なお、契約書が証拠書類として最も威力を発揮するのは、実印で押印し印 鑑証明書を契約書に添付する方法です。
認印でも押印できますが、もちろんそれなり の証拠能力ということになります。
これに対し、海外は署名による商慣習があります。
この場合、必ずし もそうとも言えませんが、『社名』を書いた後に『By(署名者)』、『Title(役職)』、『Date(日付)』を記載します。
会社の代表者で ないものが署名した場合、日本であれば表 見代理制度により会社の責任になりますが、英語圏などでは署名者個人の責任になってしまいますので、現地法や委任状の確認が必要になります。
※ 表見代理⇒一定の要件(①権利者本人が相手方に対してある者に代 理権を付与したかのような表示をした場合、②代理人が与えられた権限の範囲を超えて行動した場合、③代理権が消滅した後で代理行為をした場合)の もとで本人に対して無権代理行為の効力を生じさせることで、無権代理人を本当の代理人と信じて取引をした者を保護する 制度。
※無権代理人⇒代理権をもたないにもかかわらず代理行為をした者。
以下、【後 文】、【契約書作成日】、【当事者記名押印】の条文例を記載し ます。
【後文】
パターン①
『本契約の締結を証するため、本書2通を作成し、甲(発注者)乙(受注者)記名捺印のう え、各1通を保有する。』
⇒最もスタンダードな条文です。
ビジネスに携 わるなら方なら誰もが一度はご覧になったことがあるでしょう。
パターン②
『本 契約の締結を証するため、本書1通を作成し、甲(発注者)乙(受注者)記名押印のうえ、甲がこれを保有し、乙にその写しを交付する。』
⇒案外知られていない事実ですが、契約書は必ず自分と相手方の2通を作成し、その2通に収 入印紙を貼って双方が保管しなければいけないわけではありません。
節税対策として、片方の契約書を『写し』とすることで収入印紙の貼付を 回避することができます。
その際には原本を保管している側の契約当事者が、写しに「原本と相違ないことを証明する」と明記した上で 記名押印しなければなりません。
なお、予断ですが、国際契約の場合、収入印紙はどうなるの だろうかと思ったことはありませんか?
国際契約の場合、その契約が締結された地、つまり両当事者が調印した国、もしくは最後に署名した者の国の印 紙税法に従うことになります。
ですので、必ずしも日本側の企業が作った契約書であるから、日本の印紙税法に従うということにはなりませ ん。
やはり、場合によっては現地法のチェックが必要となります。
【契 約書作成日】
パターン①
『平成○○年 ○○月○○日』
⇒和暦版です。
個人的な話になりますが、私は和暦をあま り好みません。
天皇の皇 位継承によって振出しに戻ってしまうため、数字の表記の面で未来予測ができず(極端な話、明日にも『平成』ではなくなるかもしれない)、過去に関 しても「昭和○年って何年前だったかな」と、何かと計算が面倒臭いのです。
パターン ②
『○○○○年○○月○○日』
⇒西暦版です。
【当事者記名押印】
パター ン①
『 甲 大阪府○○○○○○○○○○○○○
株式会社法務屋の企業&企業研究所
代表取締役 法務屋 印
乙 大阪府○○○○○○○○○○○○○
次世代マーケター株式会社
代表取締役 松田真実 印 』
⇒もっともベタな条文です。
ちなみに代表者は、社 団法人や財 団法人なら『理事長』ですし、合 名会社や合 資会社なら『代 表社員』ですし、組合であれば『○○組合長』ですし、代理人として弁護士などが記名押印することもあれば、委任された営業部長 などが記名押印することもあります。
それぞれの状況に併せて、かなり多様な変化をすることになります。
ちなみに例として知人の松田君の名前を拝借しました。
パターン②
『 Alfa:Enterprise & corporate laboratory in shop of legal affairs CO. LTD.
By:Shop of Legal Affairs
Title:Representative Director
Date:January 23, 2007
Beta:Next generation's Marketar INC.
By:Truth Matsuda
Title:President
Date:January 24, 2007 』
⇒署名版も様々なタイプがありますが、その一つです。
赤文字の部分が署名部分で、AlfaとBetaの表記が言うなれば甲と 乙の役割です。
また、『Representative Director』とは『代 表取締役』のことで、『President』 は『社長』を指します。
副社長である『Vice President』などが署名者である場合は、会社を代表して署名する署名権があるかどうか確認が必要になります。
なお、米国では部 長や課長でもVice Presidentと呼んだりするので、必ずしも副社長ではありません。
社名の『CO. LTD.』(カンパニーリミテッド。コーポレーションリミテッドではありません。)も『INC.』(イ ンコーポレーテッド。本来、インクとは読みません。)も、視点や考え方が違うだけで概ね法人として法 律行為の主体となれる企業を指します。
前者の『CO. LTD.』は「自社の出資者は負うべき責任を限定されている(有限責任)」ということを、後者の『INC.』は「法人設立登記のされた企業」ということを 意味し、主に視点の違いによるものです。
なお、『COMPANY』 が単に事業体(集団)全体を指すとすると、『CORPORATION』 はその中でも株式会社として登記されている法人を指し、『○○ & CO.』は登記されていない…つまり単なる共同事業です。
しかしながら、法人格を取得している企業でも『○○ & CO.』を使ったりもしますので、例外なくそうとも言い切れなかったりします。
基本的によく使われるのは『CO. LTD.』です。
また 単に『COMPANY』といっても、国内でも新 会社法で話題になった『LLC』 や『LLP』 といった形も存在します。
以上、今回はここまで。
【Post Script】
さて、長らく続きました『取引基本契約 書』の記事も、その締め括りとなる記名押印まで辿りつきました。
これまでの記事は、基本的に発注者(買主や委託側)サイドの視点で記載していま す。
記名押印に辿りついたとはいえ、まだ完全に終了したわけではありません。
他にも盛り込まれることのある条文や付随事項など、引き続き 番外編として記載していきます。
併せて、できる限り学術的な部分を省き、より理解しやすい内容となるよう奮闘いたします。
_______________________________________________________________________________
取 引基本契約書番外編Ⅱ。(通知書等)
今回は、これまでの取 引基本契約書の記事で解説した各条項に付随するいくつかの文書(相殺通知書、債権譲渡通知書、催 告書、契約解除通知書)のスタンダードな簡易記載例を掲載します。
『相殺通知書』とは、一方の当事者が相手方に対する債権と、相手方に支払うべき債務を同時に有し ている場合に、当該債権債務の相殺を行うことを相手方に通知するためのものです。
民法第506条(相殺の方法および効力)で は、
『相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件または期限を付することができな い。』
と明記されているので、一方の意思表示のみで行なえることになり、相殺可能となる条件さえ満たしていれば口頭でも可能ということになりま す。
しかしながら、ここでは言った言わないも考慮した上で書面化しています。
また、以下に記載する『債権譲渡通知書』 が相手方から届いたとしても相殺を行なうことは可能です。
相殺通知書の送付は、手紙を出した事実・日付・内容を郵便局が証明する内 容証明郵便に、相手方が手紙を受取った事実・日付を同じく郵便局が証明してくれる配 達証明を付して行います。
これらの特殊取扱郵便により、相殺の内容、それがいつ相手方に通知されたのか等につ いて証拠能力を確保することができます。
『相殺』に関しては、本ブログ内記事『取 引基本契約書⑨。(価格、支払い、相殺)』(2006年12月18日掲載)をご参照下さい。
【記載例】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/e8/8099f9a8a40dc0e7bd168d9fe388fbf3.jpg
『債権譲渡通知書』とは、債権者が第三者に自己が有する債権の譲渡を行う際に、その事実を連絡す るため当該債権者から債務者へ郵送される文書です。
こちらも相殺通知書と同じく内容証明郵便 (配達証明付き)で送付します。
『債権譲渡』に関しては、本ブログ内記事『取 引基本契約書⑫。(権利義務の譲渡禁止、機密の保持、再委託)』(2007年1月6日掲載)をご参照下さい。
※内容証明郵便⇒文書、日付、差出人、宛先等の郵便物の内容を第三者である郵便局が謄本を用意し、配達した文書の内容を証明する郵便
※ 配達証明証明⇒相手方に何月何日に配達したのかということと、手紙を受取った事実を第三者である郵便局が証明する郵便
【記載例】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/2c/235d4904ea825fb88b2e22b6510e0688.jpg
『催告書』とは、この場合、債務の履行期(目的物の引渡期日や代金の支払期日等)が到来 しているにも関わらず、その納期や期日から遅延している債務不履行者に対して、一定の期日を設けてその債務を履行するように要求したり、契約の内容に違反 している当事者に同じく一定の期日を設けて是正を要求する文書を指します。
この催告書によっても、債務不履行 者・違反当事者が是正を行なわない場合、民法第541条(履行遅滞等による解除権)を適用し、契約の解除を行なうこと になります。
こちらも納期や期日の遅延が発生次第、内容証明郵便(配達証明付き)で送付します。
『催 告』に関しては、本ブログ内記事『取 引基本契約書⑬。(契約の解除、期限の利益の喪失、通知義務)』(2007年1月10日掲載)をご参照下さい。
※催告⇒相手方に一定の行為を要求すること。
※履行遅滞等による解除権⇒『当事者の一方がその債務を履行しない場合におい て、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。』
【記載例】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/2a/863da52ae880227340d2a6fac4d44f0d.jpg
『契約解除通知書』とは、文字通り契約の解除を通知するもので、一方の当事者が催告で指定された 期日までに違反等を是正しなかったり、監督官庁による営 業停止処分や第三者による差 押えがあった場合などに取引基本契約書内で規定された解除要件を根拠として、当該当事者に対して契約を解除する旨を通知し、実際に解除を行なうこ とを目的とするものです。
ここで基本契約書内の解除に関する条項を詳細に明記しておいた手間が活きてくることになります。
なお、こちらも また前述の文書と同じく内容証明郵便(配達証明付き)で送付します。
催告書お よび契約解除通知書の記載例に関しては、当事者の一方が債務を履行しない場合に、その相手方に法律上当然に解 除権が認められる『法 定解除』を前提としています。
『契約の解除』に関しては、本ブログ内記事『取 引基本契約書⑬。(契約の解除、期限の利益の喪失、通知義務)』(2007年1月10日掲載)をご参照下さい。
【記載例】
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/d3/da3a33b4e8eb8967987d45b482f8207d.jpg
以上、今回はここまで。
【当ブログ内関連記事】
取 引基本契約書⑨。(価格、支払い、相殺)
取 引基本契約書⑫。(権利義務の譲渡禁止、機密の保持、再委託)
取 引基本契約書⑬。(契約の解除、期限の利益の喪失、通知義務)
_______________________________________________________________________________
取引基本契約書⑰。(最終回)
さて、長らく継続してきました取 引基本契約書についての解説ですが、本日で最終回となります。
足がけ3ヶ月と2週間。なかなか長い道のりでした。
一つの記事の字 数が限定されているため、記載したくても記載できずに省略した部分もかなり多く存在しています。
また、少し目を凝らして読めば誰にでもわかるとい うレベルを意識しているのですが、その専門性から端折れなかったり、未だ理解し難い部分などが存在することは否めないように感じます。
これはひと えに私の力量不足です。
私のインプット量と可視化するための展開力が足りていないというだけのことです。
閲覧される方に読解力がないとい うわけではありません。
そういった部分に関しては、機会をみて更にブラッシュアップしていく予定です。
なお、最終回にあたって、いくつかの留意点があります。
まず第一に、 条文の記載例はあくまでオーソドックスなもので、フォーマットとして個々の取引条件に合わせてカスタマイズしていくことを想定しています。
つま り、そのまま引用できるものもあれば、そうでないものもあるということになります。
第二 に、他にも様々な形の条文が存在するということです。
例えば以下の様なものです。
『第 ○条(環境保全)
甲(発注者)および乙(受注者)は、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築を目指すことを企業の社会的責務であると 考え、現在および将来の国民の健康で文化的な生活の確保を図るため活動を推進するものとする。
(2)乙は、甲のグリーン調達基準(以下、「ガイド ライン」という)の内容を理解し、環境への配慮と事故等の防止を前提とした目的物の供給を行なうものとする。』
⇒これは『国 等による環境物品等の調達の推進等に関する法律』、いわゆる『グ リーン購入法』に基づいて盛り込まれる条文です。
今日、企業の営利活動や個人の生活の中での様々な事象の影響を受けて地球の環境が次第に 悪化してきています。
1997年12月11日にも、京都府京都市の国 立京都国際会館で開かれた『地 球温暖化防止京都会議』での『京 都議定書』に批准した日本も各国に対しCO2 排出量削減を誓約しています。
まさに時代は世界的環境保全活動の真っ只中にあり、この地球 に生きる企業や個人にもその責務があると言えます。
環境保全の条文は、そんな世界的潮流を受けて、 企業が社会的責任を果たすため、環境への負荷を軽減させることを前提とした営利活動を行なうことを目的とし、その条件に耐えうるような安全な原材料等を調 達するため独自にその調達基準となる『グ リーン調達基準』を作成し、同時に取引相手にも当該基準を遵守するよう要請するものとなっています。
皆さんも、環境に関する様々なアン ケートや『貴社の環 境基本方針は?』というような文書を受信したことがあるのではないでしょうか?
特に大手の場合、企業イメージからそのような取り組みに精 力的で、下請の中小企業などは何かしらの要求をされることがあります。
『第○条 (提出書類)
甲(発注者)は、本契約の永訣にあたり、以下の書類を乙(受注者)に提出しなければならない。
①商業登記簿全部事項証明書
② 印鑑証明書
③財務諸表』
⇒商 業登記簿全部事項証明書は企業調査、印 鑑証明書は手形の振り出し、財 務諸表は相手の信用調査などに使われます。
それほど多く見かける条文ではありませんが、ちらほら存在します。
契約書の条文は取引条件や社会の潮流に合わせ盛り込み、取引を合理化したり、企業の責務を果たしたり、時には契約書の格調を向上させ たりとさまざまな角度から検討しなければなりません。
そのためにも予見性や想像力(創造力)のブラッシュアップが必要となります。
第三に、何でもかんでも盛り込んで長ければいいというわけではありません。
あくまで取引の結果をイメージし、そこから逆算す る形で必要になる条項を炙り出していく必要があります。
例えば、海外向けの契約は分厚くて内容も厳格だと言いますが、そういったものは概ね米国向 けです。
判例が積み重ねられた不文法を幅広く含むコ モン・ロー(英 米法)系の確定的でない法体系が、逆に契約に明確さを求めることになり、分厚く厳格なものができあがる結果となっています。
これは中世 ヨーロッパの主君と臣下の封建的な双務的主従契約の流れを組むものです。
しかしながら、ここ最近では書面化も非常に簡易になってきており、場合に よっては複数のメモ書き的覚書(letter of intent)だけで契約交渉が終了することもあるようです。
これに対し、日本はロー マ法を起源とするシ ビル・ロー(大 陸法)という法体系で、基本的に成文化されたものが中心となるため、契約も当事者どうしの合意を優先しつつも法に依拠する形が主流になります。
お 隣の中国や韓国もまた大陸法系です。
契約内容は、法の観点から見て組み上げていくのではなく、取引条件から見て合理的・最適に組み上げていき、徐 々に法に歩み寄っていくスタイルが一番自然な形になっていくと考えられるでしょう。
第四 に、ここだけの話ではなく全ての実務に共通して言えることですが、全責任を持つという姿勢で取り組むことで他力本源にならないようにしなければなりませ ん。
契約書という専門的なアウトプットの作成はつい外部に任せっきりになりがちです。
第三者の目を通し、客観的評価を得ることはとても有 意義で効果的ですが、あくまでそのアウトプットを用いるのは自分自身で、その責任を負担するのも自分自身であることを忘れてはなりません。
私 は内外から依頼される業務(もちろん「外」の方はボランティアです)の処理につき、作成・提供したものに関しては、後日、ほぼ例外なく「で、アレ、どう だった?」と探りを入れています。
自分の生み出したアウトプットがどういう結果をもたらしているのかと気になり、もし、効果的に使われていなかっ たり、マイナスな結果にしか繋がっていなかった場合に、いち早くカスタマイズや加除訂正、時には抜本的な変更を行ないたいからです。
自分の仕事は 絶対に完璧だなんてことは有り得ず、なにかしらのきっかけで不備があることを認知した場合、それが引き続き世に出ていること自体が許せません。
も ちろん、なんでもかんでも全責任を負うなんて嫌だと思うこともありますが、時にはやせ我慢であっても努力を惜しまないつもりではあります。
その姿 勢が依頼者の信用を得ることに繋がると信じています。
そして、最後にそんな私から、ある方 達の有名な格言を借りて、反面教師的に日々の仕事に取り組む皆さんへのメッセージとしてこの連載記事の結びとしたいと思います。
それでは皆様へ。
たった一人でも誰かを導く責任ある立場の方にはこの 言葉を。
『 Noblesse Oblige -高貴なる者の責務- 』
by.フランセ ス・アン・ケンブル
そして過酷な実力主義に向かって舵を取る日本社会で、挫けそう になる心を奮い立たせて欲しい全てのビジネスパーソンにこの言葉を。
『 The buck stops here. -責任はここで止まる- 』
by. ハリー・S・トルーマン
_______________________________________________________________________________
0 件のコメント:
コメントを投稿